2008年10月29日

「黄金旅風」

飯嶋和一、立て続けに読んでしまいました。
しかし、しかし・・・。
「黄金旅風」は、新作の「出星前夜」を読まないと完結しない話なんですかね?
なんだか尻切れトンボな感じがして、先に読んだ2冊でうっすらと感じていた「?」が増幅された感じです。

江戸寛永年間、長崎を守ろうとした男たちの物語です。
登場する人々はそれぞれ魅力的だし、幕府や近隣の藩の思惑、切支丹弾圧など、かなり心をつかまれるのですが、長崎の町民を守りたいと言う気持ちだけが前面に出ていて、ひとつの物語としては散漫な印象を受けました。
町の暮らしが生き生きと描かれていて、心に残る話だけに残念。

長編ではありますが、話が広がるというよりは、主人公の思いが熱く語られることにかなりのページが割かれています。その思いはもちろん、心に響く部分ではあるのですが、こんなに繰り返さなくても他に方法があったのでは?と、なんだかもったいなく感じました。

黄金旅風黄金旅風
飯嶋 和一

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「ブルー・ヘブン」

ワイオミングの猟区管理官"ジョー・ピケット"シリーズを書いた著者の単発ものです。
今回は、ノース・アイダホの老カウボーイが主人公。
西部劇やカウボーイには、私は特に興味はないんですが、その魅力がどこにあるのか、ちょっとだけわかったような気がしました。

ブルー・ヘブンと呼ばれる、アイダホ州北部の美しい小さな町。
12歳と10歳の子供が森で殺人を目撃し、追われるはめに。犯人はLAから来た引退後の警官たちで、保安官に取り入り、事件をコントロールしはじめる。

ずんずん読めるし、老カウボーイも渋いです。
けれど、私にはもうひとつだったかなぁ。
この著者に期待していたのは、人間同士の争う姿ではなく、自然との係わり方なんだと、改めて認識しました。
本書は、老カウボーイの生き様が事件の解決と重なっているので、そういうものに共感できるかどうかが鍵なのかも知れません。確かに、主人公のジェスは魅力的で、古く頑固だけれど、大自然と同じで、なくなって欲しくないと思わせるものがあります。

著者は敢えて人間を深く掘り下げずに、面白い娯楽小説に仕立てているような感じがあって、面白いんだけどもったいない、と感じてしまうのです。娯楽小説だから、それでいいんだろうし、確かに人を描きつつ事件も進んでいて、バランスの良い小説だとは思うんですが。

ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
真崎 義博

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2008年10月23日

「始祖鳥記」

うん、満足。飯嶋和一、大変面白かったです。
文章が難しいわけではないのに、最初はややとっつきにくい感じです。でも、描かれている世界がわかってくると、のめり込んでしまいました。

歴史上有名な人や政治の話じゃなくて、もっと違うのが読みたい、と思っていました。フィクションであっても、実在の、一般には知られていないけれど、すごい人や、特別な土地や、そこから見える時代の空気や・・・。
けれどきっと、資料を調べるにしろ、大変な作業なんでしょうね〜。
と、堪能しつつ思いました。

始祖鳥記 (小学館文庫)始祖鳥記 (小学館文庫)
飯嶋 和一

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↑江戸中期、"飛ぶこと"に魅せられた一人の天才的な男を軸に、大飢饉や幕府の専売制に立ち向かった人々が描かれています。
お勉強は苦手だったけれども、「天明」と聞くと「大飢饉」と出てくる。そんな時代に、なんとか活路を見出そうと、知恵を絞り勇気を奮った男たちがまぶしい小説でした。
今の時代だって、似たような部分があることに、どうしても考えが行って、こんな腹の据わった人は現代にいるだろうか?、自分は行動も起こせず、考えもつかず、野垂れ死にする一人なのだろうか?、と思わずにいられませんでした。

主人公の幸吉は、世のため人のために生きている男ではなく、ただその天才的な頭脳の故か、普通なら満ち足りた生活だと思うところを、檻に囚われたように感じてしまう、ある意味特殊な人かも知れません。
けれど、日常にあって感じる息苦しさや、子供の頃の見果てぬ夢を思う気持ちは誰しも一度は感じたことがあるはずで、そのあたりをつつかれます。生きることについて、もっと考えてみたくなりました。

神無き月十番目の夜 (小学館文庫)神無き月十番目の夜 (小学館文庫)
飯嶋 和一

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↑徳川家康が覇権を握った直後、とある山里の村が、丸ごと消滅させられていたという、恐ろしい物語。
「管理」という言葉をいやおう無く意識させられました。管理すること、されることに慣れた人々と、長いこと自治によって生きてきた人々との違いが克明に描かれていて、それだけでも薄ら寒いのに、管理するために、村ごと皆殺しにされてしまう。
時代物には、こういう惨さはよく出てきますが、壊滅させられる側の事情も、管理する側の人々もいちいち詳細に出てきて、なんともやりきれないのです。それだけに印象深い読書でした。

「始祖鳥記」でも感じたことですが、生まれや育ちから来る、秀でた能力が度々登場して、はっとさせられました。
海で働くべく育てられた子供、騎馬武者となるべくで育てられた子供、これは今で言うなら、子供の頃からスポーツの英才教育を受けたような感覚なのでしょうか?
日本中、どこへ行っても同じような町や暮らしの現代では、土地の特徴さえ、あまり残さずに大人になるのだなと、なんだか淋しく感じました。もちろん、それが悪いとは言えないのですが。
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2008年10月21日

「ココシリ」

久し振りに、娯楽を狙っていない、美しい映画を観ました。
リアリティあふれる、過酷な状況が映像になっているのですが、観終わって最初に頭に浮かんだ言葉は、"美しさ"。

まず、舞台となっている秘境が息を呑むほど美しい。
そして、凄まじく厳しい。
日頃、自然がどうのと簡単に口にしているけれど、本来その美しさは、壮絶な厳しさと隣りあわせなのだと背筋が伸びる想いでした。

人々の生き様もまた、美しい。
うまく表現できないけれど、生死に関して、灰汁のようなものがないとでも言ったらいいのか。

この映画は、チベットカモシカを守ろうと結成された、民間のマウンテン・パトロールと密猟者の戦いを追った、実話が元になっています。
地元の私設組織であるマウンテン・パトロールは、人もお金も不足する中、密猟者に隊員を殺されるなど、血なまぐさい戦いを余儀なくされている。北京の新聞記者はその実態を取材すべく、密猟者を追う隊員に同行。密猟の現実とともに、過酷な自然、その中で生きる人々の死生観にも触れることになります。

のっけから非常な緊張感で、最後まで観ていられるだろうかと思ったほどでした。会話も説明も少なく、音楽も流れず、圧倒的な映像と風の音が押し寄せてきます。
そしてチベットの人々の生活が垣間見える。

密猟は許されない行為だけど、その裏には貧しさなど必ず社会問題があります。この映画は、淡々と現実的な描写を繋ぐことで、それをしっかりと見せてくれます。"物語"を作るための、あれやこれや余分なものがなく、そういう意味でも美しい映画だと感じました。

それぞれの俳優も非常に魅力的でした。いい顔してるなぁと。
チベット人をキャストし、言葉も場面によって中国語とチベット語を使い分けているそうです。チベットの政治的な状況が、背景にはあるはずだし、全部日本語スーパーでなく、うまく字幕を使ってあらわして欲しかったなぁと、ちょっとそこは残念。

ココシリココシリ
デュオ・ブジエ, チャン・レイ, キィ・リャン, ルー・チューアン

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2008年10月12日

「合葬」

杉浦日向子、やっぱりすごいなぁ、と久々に読み返してため息です。

彰義隊の隊員3名に視点を据えて描かれた、滅び行く江戸。
切ないんだけど、清々しくもある。
で、なんだかすごく"近い"感じがするのです。

昔に比べて、今の若者は幼いとよく言われるし、実際そう感じもする。
けれど、若者の本質は、時代や風俗が変わっても、同じなんだなぁと、当たり前かもしれないけれど、思いました。
そんな普遍性が、この漫画の到達点を高くしているのかなと。

始まりの、旗本の家へ従者が駆け込むシーンから、とても印象的です。
形式や体面を重んじる武家の感受性がある一方、散切り頭が流行り、ちょんまげを二分で売ってしまう学生もいるわけですよね。

後の時代の我々が傍観している中で、事態は切迫し、にっちもさっちも行かなくなっていく。そして、明るく生きている若者たちは、家や主君、未来、自分の夢をかかえつつ、あっさりと散ってしまう。
ある意味、時代に絡めとられていて、そのあたりが妙に若者らしい。そして悲しい。

著者は20代半ばで、これを描いてますけど、若いからこその着眼点なのかな。
いや、でも他の作品からも似た香りは立ち昇っているので、そういう目を持った人だったのですよね。タイムトラベラーなどと呼ばれる所以かな。

合葬 (ちくま文庫)合葬 (ちくま文庫)
杉浦 日向子

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2008年10月10日

「食堂かたつむり」

テレビで紹介されているのを見て、興味を持った友人が購入、「どう思うか聞かせて欲しいから読んで」と、手渡された本でした。

いや〜。久々に、読んでいて怒りを感じてしまいました・・・。
作品自体の出来も疑問ですが、私には主人公が傲慢に思えてならなかった。
この本から見えてくるのは、自己愛だけです。
もちろん、傲慢さや自己愛は小説のテーマとしては深く面白いものだと思いますが、本書はそれ以前の問題で、傲慢だということに気がついていないのです。

失恋した女性が、料理を振舞うことで再生し、家族との絆も再発見する、というような内容なのですが、著者が本当に書きたかったのは、愛や命などではなく、自分のお気に入りのインテリアで飾ったお店や、得意なちょっと変った料理だけなのではないでしょうか。

"食べる"という関連から、無理やり導き出したような"命"というテーマは、料理を語る部分に比べると、ほんとうは真剣に考えたことないんじゃないかと思うぐらいお粗末なのです。

ふわふわした、寓話的な雰囲気の中で進むわりに、ぎょっとするほど性的でグロテスクな比喩が出てきたり、詳細な豚の解体シーンが出てきたりして、それにも驚きました。"現実"を表現する手段としては、あまりにも・・・。

ある意味、素人が書くとこうなるんだろうか?、という他ではできない貴重な体験をしたような気もします。

食堂かたつむり食堂かたつむり
小川 糸

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2008年10月09日

「沈黙の虫たち」

天使が震える夜明け」を読んで、すっかりファンになった、P.J.トレイシーの2作目です。
1作目とは雰囲気が違って、ミネアポリス警察署の面々が主人公。

相変わらず人物の描き方がうまくて、刑事たちのやりとりにはニヤニヤ笑いが止まりませんでした。軽口をたたきあい、上司の服装をからかい、悲惨な事件の会議中でも、笑い出しそうになるのを必死でこらえる。
部長刑事が、事件について、つい深刻な言葉を吐く場面では、「彼は現場を離れて久しいから」と、現場の陰惨さを知る者たちの日常が表現されています。そういう心配りのようなものが全編にあって、登場人物の誰もが、好ましく感じられるのです。

個人的に気に入ったのは、若者のしゃべり方(質問ではないのに、語尾が上がって疑問形のような口調になる)をうまく使っているところ。
これは訳でも、いちいち?マークがついていて笑ってしまいました。

事件は、模範的な市民であり、静かに余生をおくっている老人が、次々と殺害されることで始まります。被害者の繋がりを探るうち、彼らが強制収容所の生き残りだとわかる。
この本は、"私刑"の是非を問うという重い問題を扱っているのですが、その問題と、配置された人々との関連がとってもバランスよく作られているのです。だからこそ、強制収容所の生還者なのだと。
本書の現代は、「Live Bait」。(生き餌)
日本語タイトルは、なかなか素敵だし好みだけど、原題はビシッと内容を表しているのですね。

正直なところ、1作目に比べるとやや期待はずれだと思ったのも事実ですが、このミネアポリス警察署のノリもまた捨てがたいのも事実。次作に期待です。

沈黙の虫たち (集英社文庫 ト 9-1 ミネアポリス警察署殺人課シリーズ)沈黙の虫たち (集英社文庫 ト 9-1 ミネアポリス警察署殺人課シリーズ)
中谷 ハルナ

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2008年10月05日

「深海のYrr」

分厚い文庫本3冊。いや〜、なかなかの長さです。長い分には、私はけっこう平気なんですが、今回はそれなりに飽きたり疲れたりしました。

深海に潜むある未知の生物のおかげで、地球上に異様な事故が続出する、その生物は一体何で、人類はどうやってこのカタストロフィを生き延びるか、という話なのですが、読みどころは詳述された科学的な情報です。

研究機関や科学者、深海に潜るための潜水艇やスーツなど、実在のものが登場します。特に深海用のダイビングスーツについては、つい先日、ダイビングが人体に与える影響を「シャドウ・ダイバー」で知ったばかりの身としては、驚くばかりでした。

その他にも、これでもかと専門的な情報が出てきて、面白くもあるのですが、無理やり読まされている感もあって、だんだん飽きてもくるのでした。しかし、この情報を抜きにすると、どこかで聞いたような話なので、ちっとも面白くなかったかも知れない。
ストーリーそのものは、ハリウッド映画によくある感じです。ただし、アメリカとアメリカ軍が悪役に回っているのは、やや趣向が異なってはいます。

未知の生物の謎を巡って、環境破壊や、人類が神に創造された選ばれたものであるという認識、価値観をどこに置くかなどの論議が登場人物の間でおこります。人間の価値観で、人間以外の生物を計るのは傲慢だ、というのは共感できるし、一神教であるキリスト教の限界なども見えて、そのあたりは面白く感じました。

深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)
北川 和代

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2008年10月01日

「アメリカよ、美しく年をとれ」

タイトルが良いなぁ、と手に取りました。
著者は、半世紀以上にもわたって、アメリカを見つめ続けてきたアメリカ史研究の第一人者。本書は、著者が自らの若き日々を振り返りつつ、アメリカの変貌と本質を探ったエッセイです。

日本人は基本的に、ずっとアメリカが好きで、アメリカを通して世界を見て来たようなところがあるけれど、もはや「アメリカが好き!」なんて大声で言える雰囲気はなくなっていますよね。日本に限らず、世界中の人が、自由で豊かなアメリカに憧れたのに、今では嫌われ者になっている。
アメリカの変り行く姿を、著者は自分の実感と、報道や文献などを引用して辿り、そして愛を持って、「老醜をさらすな」と警告しています。

個人的には、アメリカは怖い国だという印象があります。富と権力のためには、自国の国民ですら犠牲にするような怖さです。そういう傲慢さを、国民は感じていない様だという怖さでもあります。
11月には大統領選挙がありますけれど、この先アメリカはどう変っていくんだろう?
そして日本はアメリカと、どう付き合っていくんだろう?

アメリカよ、美しく年をとれ (岩波新書)アメリカよ、美しく年をとれ (岩波新書)
猿谷 要

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