2009年09月21日

「『左利き』は天才? 利き手をめぐる脳と進化の謎」

なぜ左利きと右利きがいるのか?というのは、気になる人が多いんじゃないかと思いますが、本書を読んでも答えはわかりません。
要するに、まだ解明されていない、ということのようです。
サブタイトルに、"脳と進化の謎"とあるので、脳科学的な解答を期待してしまいますが、正直なところ、そういうワクワク感の味わえる本ではありませんでした。

本書は、左利きである著者があちこち旅をし、利き手をめぐる謎を追う、という内容です。
目次を見ると、「左利きの歴史」、「脳の仕組みと利き手」、「左利きは遺伝するのか?」等々、非常に興味深い章立てになっているのですが、エッセイ風なので、旅程などまで出てきて、ちょっと散漫な印象です。

それでも、右利きか左利きか、というよりは、極端な片手利きか両手使いに分ける方が適切だ、と言う解釈が出てきて、そこは新鮮でした。私は自分が右利きなのか左利きなのかよくわからないので、なんだかすっきりしました。

一番興味深かったのは、西洋での左利きの扱われ方です。
日本やインドでは、文化的に左利きは良くないものとされているのは知っていましたが、西洋でも忌み嫌われていたとは知りませんでした。
その辺の雑学的な部分は楽しめました。
知らなかった左利きに関する薀蓄を読むぐらいの気持ちだったら、それなりに楽しめるかも知れません。

「左利き」は天才?―利き手をめぐる脳と進化の謎「左利き」は天才?―利き手をめぐる脳と進化の謎
David Wolman

日本経済新聞社 2006-07
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2009年01月19日

「空へ」&「デス・ゾーン8848M」

1996年のエヴェレスト遭難を扱った本を、2冊続けて読みました。
自身も当事者であったノンフィクションライター、ジョン・クラカワー著の「空へ」と、クワカワーの著作の中で批判を浴びることになったロシア人ガイド、アナトリ・ブクレーエフの視点で綴られた「デス・ゾーン8848M」です。

最近では、誰でも登れるの?などと思ってしまいそうなエヴェレストですが、人の生きていける環境ではない高所が、どんなところなのかを初めて知りました。
人体への影響の過酷さにはびっくりです。そんなところでも、ガイドやシェルパに連れられれば、経験の浅い人でも登れるという商業登山にも、改めてびっくりです。

そして、そういう商業登山隊が遭難事故を起こしたのですね。
登山家であることと、登山のためのガイドであることは違うだろうし、商業登山を成功させるビジネスマンであることもまた、違う資質が必要だろうと思います。

育った国や育ち方が違えば、ものの考え方も違う。
登山ビジネスを成功させたいと願うなら、また違った視点も出てくる。
小さな食い違い、判断の違い、個人の思惑などなど、それらが渾然一体となって、悲惨な事故に繋がったのでしょうけれど、何ともやりきれない。

「空へ」の方は、この遭難事故の全貌を、なるべく詳らかにしようという著者の気持ちが伝わってきました。
登山を知っているライターが、たまたまこのような遭難の当事者になるというのも、恐ろしい偶然だと思いますが、プロであるだけに、情報の扱い方に対する真摯さや筆力を感じました。おかげで、登山そのものだけでなく、シェルパや商業登山の背景なども知ることができました。

一方、ブクレーエフとライターの共著である「デス・ゾーン」は、ブクレーエフの手記に近い印象です。とは言え、クラカワーの著作ではわからないことも出てくるし、一人の登山家の哲学や人となりが滲み出ていると感じました。
事故の翌年、インドネシア隊を連れてエヴェレストへ戻り、前年の犠牲者の遺品を回収したり、ささやかに埋葬するくだりは涙が出ました。

空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)
Jon Krakauer 海津 正彦

文藝春秋 2000-12
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デス・ゾーン8848M―エヴェレスト大量遭難の真実デス・ゾーン8848M―エヴェレスト大量遭難の真実
Anatoli Boukreev G.Weston DeWalt 鈴木 主税

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2008年09月23日

「昨日の戦地から」 米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア

太平洋戦争終結直後、アジアに駐留する若い米軍日本語将校たちが、体験を伝え合った書簡集です。

この手紙のやりとりは、自然発生したものではなく、彼らが意識的に始めたものだと、ドナルド・キーンによる"はじめに"に書かれています。その思いつきもさすがですが、彼らの聡明さにも驚かされました。
書かれたのは、1945年8月から翌年2月。
書いたのは、日本に造詣の深い若い将校たち。

まさに終戦直後の日本人が、どんな風で、何を考えていたのか、それを見て、日本をよく知る米国の若者たちがどう感じ、何を考えたのか、とても興味深かった。友だちへの手紙という形なので、自然な雰囲気ですが、意識的に体験を綴られているだけに、非常に冷静です。

書き手たちは、親日感を持ちながらも、アジアでの蛮行に失望したりつつ、当時、世界中から憎まれていた日本を、社会や文化の比較という視点から、客観的に見ています。
この書き手たちは、キーンはじめ、その後みな一流の活躍をしており、そんな人物の若き日の体験としても、さもありなん!と唸りたくなりました。

昨日の戦地から―米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア昨日の戦地から―米軍日本語将校が見た終戦直後のアジア
ドナルド キーン Donald Keene 松宮 史朗

中央公論新社 2006-07
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2008年09月16日

「シャドウ・ダイバー」 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち

沈没船に潜り、冒険の証を持ち帰るレック・ダイバーたちがUボートを発見し、その謎を解明するまでのノンフィクションです。

読み応えありました。思わぬ面白さでした。
まずレック・ダイビングに関する詳しい記述が面白い。
素人でも、無理なくレック・ダイビングがどういうものなのか理解できます。そしてダイバーたちの生い立ちや、野望、確執など、彼らの世界をしっかりと見せてくれます。

その上でUボートなのです。
すっかりレック・ダイビングに馴染んだところで、公式記録の出てこない、謎のUボート調査が始まります。
なぜ記録がないのか、そこらあたりは読んでいただくしかないですが、調査をするダイバーの執念や信念は感動的です。

Uボート乗組員についても綿密に取材されており、第二次世界大戦当時のエピソードや写真で、最後には、生きた彼らに接することになります。
ここまで書いてくれたら満足!というところまで書かれていて、厚みのあるノンフィクションでした。

シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち
シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち上野 元美

おすすめ平均
stars限りなく最高に近いノンフィクション
stars人の限界に挑んだ男達の物語
stars海底を元にしたアドベンチャー
stars男のロマンの裏側
stars読み終えるのが惜しくなる

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2008年03月26日

「焼かれる前に語れ」

以前、ミステリの「死亡推定時刻」を読んで、日本の検死ってそんななの??とかなり驚きしましたが、本書を読んで愕然としました。
日本の現状、寒すぎです。こんな寒い状態があまり話題にすらならないで今まで来たところに、日本のうそ臭さがよく現れている気がします。

検死を待っている遺体が安置される場所も、検死をするための専門機関も何一つないなんて、信じられません。
たいていの人は、日本も世界有数とは言えなくても、それなりのものはある、と"普通に"思っているんじゃないでしょうか。もし私が変死したら、スカーペッタみたいな人に検死して欲しいと思ってたけど、それどころか、検死自体よほどのことがないとやってもらえない。しかも最初は、ガレージに運ばれる? いやだー、そんなの!
何か犯罪に巻き込まれたりして死んで、ろくに死因の究明もされずに葬られたりしたら、私は絶対化けて出ます!

国に頼っている他のことも、こんなのが色々あるんですかね?
あるんでしょうね・・・。

焼かれる前に語れ
焼かれる前に語れ柳原三佳

おすすめ平均
stars日本の死体は語れない
stars法医学のお寒い現状を、社会問題として興味を持つ方へ

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2007年09月23日

「でっちあげ」 − 福岡「殺人教師」事件の真相

こういう事件があったことは覚えていましたが、詳細はこの本で知りました。
テレビで報道されていた当時、いまどき外国人を差別するような発言を、おおっぴらにする人がいるのか?と不思議に思ったのを覚えています。

この事件が加熱されていったのは、やはりメディアの責任が大きい。
子供への虐待や不謹慎な教師に対する社会の熱が高まっていたという背景があったにしろ、記者って、そんなにウラもとらずにホイホイ記事にしてしまうのか?とびっくりしました。
記事は「商品」でもあるでしょうけれど、質をもっと問われても良い気がします。

それに、教師の立場や、教育委員会の方向、親の行動、どれもおかしい。
私は子供もいないし教育現場のことはわかりませんが、子供を持つのが怖いと言う気持ちは、ここ10数年、かわりません。

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相
でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相福田 ますみ

おすすめ平均
stars未詳
starsADDのお子さんとその保護者は直ちに浅川夫妻を訴えるべきである
stars報道が正しいとはかぎりません
starsメディア被害が、何故繰り返されるのか?
stars発達障害

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2007年04月29日

「シーラという子」

この手の問題は興味があるのに、なぜか食わず嫌いしていたこのシリーズ。
読んで良かったです。"生"の姿が書かれていました。

「シーラという子」の続篇にあたる、「タイガーと呼ばれた子」も続けて読みましたが、さらに興味深かった。
この2冊の間には、時間にしても15年の隔たりがあるのですが、「タイガー〜」が書かれたことは、とても意義があると思いました。
「シーラ〜」だけでも、確かに面白い。けれど、そこで終わらない現実を明らかにしてくれたことで、もっと深い部分を知ることができた。

私は当初、そうでないならいいが、と思いつつも、「タイガー〜」の内容はもっと悲惨なのではないかと想像していました。6年間の中のほんの数ヶ月間が、虐待された少女の人生にどのくらい影響をあたえるのか、多少懐疑的でもあったからです。

けれど、著者もシーラも、立ち向かっていくのですね。
虐待から逃れることはできても、傷つき破壊された内面の問題は一生ついてまわるはず。それでもなんとか自分に価値を見出そうとしている。

著者が、特に「シーラ〜」の中でたびたび書いている「子供たちは勇敢だ」という表現がとても印象的でした。
自分のせいではない障害を抱えながら、恐怖や混沌に立ち向かう姿は、野生動物と同じように美しい。

こういう現場を取材して書かれたものや、専門家が学術的に著した本も面白いものがたくさんあると思いますが、本書はそれを凌駕する力があると感じました。
平明な文章の奥に、著者の経験と勘に裏打ちされた、本質を見抜く目があるからだと思います。

<トリイ・へイデン文庫>シーラという子--虐待されたある少女の物語 (ハヤカワ文庫 HB)
<トリイ・へイデン文庫>シーラという子--虐待されたある少女の物語 (ハヤカワ文庫 HB)入江 真佐子

おすすめ平均
stars小説のよう
stars障害児教育って
starsこんな先生がいれば・・・
stars生きるという事を教えてくれます!!

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<トリイ・へイデン文庫>タイガーと呼ばれた子--愛に飢えたある少女の物語 (ハヤカワ文庫 HB)
<トリイ・へイデン文庫>タイガーと呼ばれた子--愛に飢えたある少女の物語 (ハヤカワ文庫 HB)入江 真佐子

おすすめ平均
stars愛しい
starsトリイの自己治療の物語として
stars「シーラという子」を読んでから読んでほしい
stars強い女性

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2007年03月29日

「敗因と」

ドイツW杯を見ながら、「日本代表、あまり仲良さそうじゃないなぁ」と、やはり思ったクチです。
サッカーのことは詳しくはわからないけど、実力が出せていなかったように見えました。すると、こんな本を見つけた。

本書は、"W杯でなぜ日本は惨敗したのか?"をテーマに、世界中の関係者に取材して、その内幕を明らかにした本です。

読んでいて、非常に悲しかった。負けて悔しいとか、腹が立つとか、そういうのではなく。
人が集まれば、しかもポジションを奪い合いつつ連携連帯が強いられる環境では、ギクシャクするのは当たり前じゃないか。
けれど、それを踏まえた上での代表じゃないか。そういう面への対策は予め練られていなかったのか。

バランス感覚や、コミュニケーション能力が低いのは現代人の特徴かとも思えるけれど、それで通用するのは狭い世界の中でだけなのでしょうね。
一般人だって、仕事でいやなヤツと絡むこともあるけれど、それで実力を出せないようでは上へは昇れない。

チームスポーツの選手を見ていてよく思うのは、もしこの人が個人競技を選んでいたらどうだったろう?と言うことです。
もし、イチローがテニスプレーヤーだったら?、中田ヒデがゴルファーだったら?
それはともかく、今後の日本代表に、協会組織関係者に期待したいです。エールを送りつつ。

敗因と
敗因と金子 達仁 戸塚 啓 木崎 伸也

おすすめ平均
stars朝日新聞と慰安婦問題
stars敗因とは?
stars見事な敗因の分析だがやり過ぎのところも
stars私たちは日本人だということ
starsまあ、こんなもんか。

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タグ:スポーツ

2007年03月03日

「凍」

久々の沢木耕太郎でした。
ノンフィクション、フィクションの区別がない、というようなコピーにちょっと「?」と思っていたけど、読んでいるうちにそんなことはどうでもよくなりました。
この登山家夫婦の存在そのものが圧倒的なのです。

夫婦それぞれの生い立ちから、登山を始めてからの軌跡、結婚後の生活、と彼らの生き様が丹念に書かれています。
そして、遭難(と言えると思いますが)、その後。

彼らの生活や、登山の準備の様子などから、山に登ることが現実としてどういうことなのか素人にもわかって、そのひとつひとつがとても興味深かった。
凍傷にいたる過程や、その治療なども初めて知りました。

登山は、なぜそうまでして登るんだ?と、登らない人は必ず思っていて、登山家の言葉をいくら聞いても、実感としては理解できないものだと思います。
けれど、この夫婦の物語を通して、その内面に少しですが触れることができたような気がします。

それにしても壮絶です。
淡々と書かれてはいるけれど、それ以上に、この山野井夫婦は淡々としているのです。

凍沢木 耕太郎

おすすめ平均
starsそれをやらないと生きてはいけないというもの
stars夫婦の愛情のおはなしです。
stars予想どおり、だけどよい。
starsどっちつかず
starsまさに「凍」の世界

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2006年05月06日

「博士と狂人」

ある"狂人"が、アメリカの上流階級に生まれ、高い教育を受け、キリスト教の道徳感の中で育ちます。
医師でもあり、芸術に造詣が深く、軍では大尉。

"博士"は、貧しい環境に生まれながら、独学であらゆる言語を学び、その世界の第一人者となります。言語学は才能だ、とよく聞きますが、この人などはまさにその稀有な才能に恵まれた人だったと思われます。

本書はこの二人の話を中心に、70年以上もかけて編纂されたOED、オックスフォード英語大辞典編纂の経緯が綴られています。

イギリスが大きな力を持っていたビクトリア時代、自国の言語と宗教が世界に広まって当然だと考えていた人々。
彼らによって計画され、その発案から二十数年も経った後、やっと手をつけることになった辞典編纂など、背景も面白かった。

また、シェークスピアは引きたくても引く辞書が存在しなかったとか、辞書を引くという言い回しが初めて使われたのは1692年だったなど、言葉と歴史に興味のある人には面白い薀蓄も含まれています。

この話、うまく脚本を書いて映画にしてくれないかな〜。
きっと、すごーく面白いものになると思うんですけど。

博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話
博士と狂人―世界最高の辞書OEDの誕生秘話サイモン ウィンチェスター Simon Winchester 鈴木 主税


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2006年04月05日

「無人島に生きる十六人」

明治31年、太平洋で座礁し、小さなさんご礁の島で約4ヶ月を暮らした16人のおじさんたちの話です。
子供向けっぽいのでどうかなと思ったのですが、これは面白かった!
船が座礁したとたん、猛烈な勢いで生き抜くための仕事を始めるおじさんたちはかっこ良かったです。

ここに出てくる人たちは、ほんとの意味で大人だと感じました。
自分の中に、ある種の「覚悟」を持っているということの、強さや優しさを見せてもらったような気がします。

何より、明るい。
悲壮感や絶望感はこれっぽっちも漂っていません。
絶望しないように、そんな雰囲気が流れないように、船長がみんなをひっぱって、年長のものはその経験から、それとなく若者の心が痛まないように気を配っている。

文庫の厚さにして、1cmぐらいなので、あっという間なのです。
これでも充分面白いんですが、欲を言えば、もっともっと読みたかったな〜。
子供でも読めるように、ひらがなを多く使って平明な文章で書かれています。
同じ意図で、細かい部分は省かれたのかなとも思いました。
きっとほんとうは、もっと厳しく悲惨で、どろどろした面もたくさんあったんだと思います。
だけど、子供に伝えるべきこととは?、と考えたとき、その省略は許せるものだと感じました。もちろん、きれいごとだけを言っているのじゃいけないけど、本書のように、極限状況にある場合、まずは勇気や冷静さ、他人を思いやる気持ちが前面に出されるのは納得できます。

最後の、あざらしとの別れのシーンは涙が出ました。
ひょんなことから出会った本だったけど、読めて良かったと思えた本でした。

無人島に生きる十六人
無人島に生きる十六人須川 邦彦

おすすめ平均
stars日本男児ここにあり
stars良書発見
stars冒険実話 そして リーダーシップ論として
stars現実にあった16人の漂流譚
stars子供向けです

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タグ:須川邦彦

2006年03月05日

「ミュンヘン」- 黒い九月の真実

スピルバーグの映画のおかげで、書店に並ぶようになったミュンヘン関係の書籍のひとつです。
著者はタイム誌のイスラエル特派員で、ミュンヘンオリンピックでの事件の詳細と、その後の暗殺劇について、淡々と事実が綴られています。

オリンピック当時、イスラエル政府や情報機関がどんな風だったのか、また事件発生時、西ドイツの対応はどうだったのか、そのあたりを読むと、事件の帰結の痛ましさがたまりませんでした。

大義のもとにテロや暗殺を行うとは言え、やはり報復だという側面が大きいというのが実感です。報復は報復を呼ぶだけだけど、それをやらないという選択肢が採られることはめったにないのだなと。

印象的だったのは、ミュンヘン事件の被害者遺族は、報復を望んでいなかったという記述でした。
しかし、報復としての暗殺やテロは激化し、"やりやすい"標的から狙われていく。世界の国々は、自国の利益と思惑で動き、善悪や正義は二の次だというのが現実です。
911以降のことを考えてみても、大義や正義は絵空事かと思わずにいられません。

個人的には、パレスチナにもイスラエルにも同情を感じます。
個々のテロや暗殺には、非常に怒りを感じるけれども、その怒りをぶつける先がなくて、残るのはやりきれなさです。
けれど、ほんの少しでも興味を持ったり、知っておくことは、せめて個人にできることなのかなと思ったりもします。

ミュンヘン―黒い九月事件の真実
ミュンヘン―黒い九月事件の真実アーロン・J. クライン Aaron J. Klein 富永 和子


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タグ:戦争・テロ

2005年11月22日

「南京難民区の百日」−虐殺を見た外国人

これは読むのが辛かった・・・。
一気に読んでしまうことができなかったので、かなり時間がかかりました。

本書は、当時南京に駐在し「安全区」で働いていた外国人宣教師や医師の日記、文書を中心に、南京大虐殺の全体像を描いたものです。

南京攻略がなされた背景、そこへ送られた軍がどういうものだったのか、軍を率いる指揮官はどんな人だったのか、当時、日本国内ではどう報道されていたのか、南京大虐殺に至る、軍の規律の低下や兵の心理はどうだったのか・・・。

日本軍兵士の日記や、従軍した医師の記録なども出てきて、そこにさらりと書かれている内容の異常さに唖然としてしまいました。

「日本軍にとっては、強姦は犯罪ではないのではないか」と訝るアメリカ人の言葉が出てきますが、強姦も殺人も、放火も強盗も、犯罪だとは考えていなかったとしか思えないような内容です。

南京大虐殺は、虚構説などもあって、その手の本もたくさん出版されているようです。
何が虚構で何がそうでないのか、私には判断できない。けれど本書を読む限り、虚構などとはとても言えない。
虚構説でよく引き合いに出されるのが、南京の人口問題のようです。
しかし、虐殺が30万でなく、5万だったとしても、許されるものじゃないと思いました。

少しですが、まともな日本軍の人間も出てきます。
それが少数派だというのが悲しいところですが、全体を通してかなり辛い読書の中、ちょっとだけほっとできる瞬間でした。

南京難民区の百日―虐殺を見た外国人
4006001509笠原 十九司


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2005年08月06日

「拒絶された原爆展」 − 歴史の中の「エノラ・ゲイ」

昨日の夜、TBSで「原爆は止められたのか」という特別番組をやっていたのを見て、この本を思い出しました。

番組の最後に、原爆の開発者である科学者と被害者との対談がありましたが、ほんとうに両者が対面したこと自体に衝撃を受けました。
個人的には、この人よくヒロシマに来たなぁ、と思った。
彼にとっては栄光の歴史であっても、その被害者がわんさといるところへ、しかもテレビ付きで・・・。

私たちは日本人だから、当然ながら原爆を被害者の目から見ています。
番組でやっていたように、もし日本のやり方が違っていれば、原爆投下は免れたかもしれないと思っている。
そして、戦争中は日本も酷いことをしてその罪を背負っているから、原爆を投下した人たちも、少しは罪の意識を持っているだろうとも思っている。
そこには、原爆は人道的に許されない、という共通認識があるのですが、その点では世界中の人が同じだとも思っている。

けれど、どうなんでしょうね?

日本に原爆が落とされた後、ベトナム戦争では枯葉剤が巻かれたし、イラクには劣化ウラン弾が落とされました。
これが現実なんですよね。今後も、同じようなことが繰り返されるのは、火を見るより明らかという気がします。

この、「拒絶された原爆展」は、スミソニアン博物館で企画され、最終的には中止された、原爆投下機エノラ・ゲイを中心とする米国初の原爆展の経過を、当時の博物館長が綴ったものです。

なぜ、アメリカで原爆展ができなかったのか、是非読んでみてください。

拒絶された原爆展―歴史のなかの「エノラ・ゲイ」
4622041065マーティン ハーウィット Martin Harwit 山岡 清二 原 純夫

おすすめ平均
stars20世紀の歴史に残る名著

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「宿命」 −「よど号」亡命者たちの秘密工作

いやー、これは・・・。
すごいです。

「よど号」や赤軍派に興味がなかったり、何のことだかよくわからなくても、北朝鮮による拉致に興味のない人はあまりいないと思います。
この二つを結ぶ北朝鮮と言う国に対する、ある種の「謎」が解けるような、濃くて素晴らしい内容でした。

私自身は、「よど号」も学生運動もピンと来ません。
そういうことがあった事実は知っていても、革命を起こそうとした学生達の気持ちや、時代の空気などがわからないのです。
だから、どう捉えてよいのかわからない。

この本は、赤軍派に所属し、「よど号」リーダーである田宮高麿と旧知の仲であった人によって書かれています。
ハイジャックをして北朝鮮に渡った後、彼らがどのような生活をし、どのように教育され変わっていったか、どんな活動を行っていたか克明に記されています。
この人だからこそなしえた充実した取材内容と、そこからはじき出される正確な認識。それをこんなにわかりやすく伝えてくれるなんて、それもまた、すごい、と思う。

オウム以来、「洗脳」と言う言葉もお馴染みになったけど、その洗脳が北朝鮮ではどのように行われるのか、それによって、人はどう変わっていくのか、非常に興味深く読みました。
薬を使うわけでもなく、主張を押し付けるでもなく、あくまでも本人に「自主的」と思わせながら人を変えていくことができるんですね。

それと「嘘」や「真実」に対する考え方の違い。
日本の質問に対して、北朝鮮から出される回答の不思議さがどこから来ているのかが、おぼろげながらもわかったような気がします。

この本が書かれてから、拉致問題もずいぶん進展がありました。
著者にとっては、苦しいかもしれないけど、是非その後についても書いて欲しい。
けれど、私たちが、私たちの思う「真実」を知ることができるのは、全てが終わった後なのかも知れません。
終わることがあるのかどうか、それこそが一番の問題なのかも知れないけど・・・。

宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作
4101355312高沢 皓司

おすすめ平均
starsおすすめします
starsもしあの時
stars骨太のノンフィクション
stars北朝鮮を知る上でかかせない一冊
starsスケールの大きな正統派ノンフィクション

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タグ:戦争・テロ

2005年07月21日

「桶川ストーカー殺人事件」 −遺言

これは、読んでよかった。
実はこの事件、よく知りませんでした。けれど被害者のことを考えると、知ってよかった、今まで知らなくてごめんなさい、とほんとにそう思います。

写真週刊誌「FOCUS」の記者が、自分で歩き回って集めた情報や、苦労して撮った写真などをもとに、警察より先に犯人を特定してしまう。
けれど、犯人逮捕前に顔写真を週刊誌に出せば、潜伏先がバレて、犯人が逃げ出してしまう。
警察には相手にされない"三流週刊誌"の記者である著者は、ある筋を通じて、複雑な経路で警察に犯人の情報を流します。
しかし、警察の動きは鈍い。情報集めで歩く先でも、百人単位でいるはずの捜査員に出会う事もない・・・。

事件の真相自体が、まるで小説のようだし、著者がほとんど当事者となってしまっているのも感情移入できるし、取材の方法なども興味深く読めました。
けれど、「面白かった」なんて、軽々しく言えないような、胸に迫る内容でした。

何か恐い目に遭っても、警察は助けてくれない。
仕事が増えるのが嫌だからと、捜査はロクにしないし、告訴をなかったことにして、平気な顔でウソを公式発表する。

新聞は、警察発表をそのまま伝えるだけで、真実を報道するわけではない。
週刊誌やテレビは、連日押しかけてインターフォンを鳴らし続け、美人だとか風俗だとか、そんな事件とは直接関係のない、センセーショナルな部分だけをとりあげる。
それが真実かどうかなんて気にもしない。
そしてワイドショーを観た人々は、ヤジウマとなり、嫌がらせをし・・・。

普通に生きていた普通の人が、運悪く被害者になったら、世の中はまるで地獄に変わってしまう。
そういう国って、いったい何なんだろう?

著者が飼っていたハムスターの話がちらりと出てくるのですが、そのハムスターの「のすけ」と、著者のお嬢さん、そして被害者である猪野詩織さんの死が絡んで、身近な人を喪失すると言う、どうしようもなく深い悲しみが伝わってきました。
思い出すだけでも涙が込み上げてきます。

桶川ストーカー殺人事件―遺言
4101492212清水 潔

おすすめ平均
stars事件が全然終わってないことご存じでしたか
starsこの事件を中途半端にしか知らない人に読んでほしい!
stars腐敗しきった警察組織と情けないマスコミ、そして執念の取材
stars奇跡の‘傑作’
starsジャーナリスト魂の権化

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タグ:事件・事故

2005年07月12日

「色の秘密」

「人はピンクで若返り、白い部屋が美人をつくる!」
なんて書かれてた日にゃ〜、買わないワケにはいきまっしぇん!

今では、インテリアコーディネイトから、ファミレスやファーストフード店の色使い、政治家のスーツの選び方まで、色彩が重要視されているし、そんなことはある程度当たり前だと思っていました。

けれど、改めて本で読んでみると、面白い発見がいっぱいでした。
人は視覚でのみ色を判断しているのではなく、目隠しをしても皮膚で感じ取っているだとか、電灯の選び方ひとつで、仕事の効率があがったり病人が続出したりするだとか、まだ熟していない緑のトマトを、それぞれ白、赤、黒の布で包んでおくと、色によって劇的な変化が現れたりだとか・・・。

本書はけっこう多岐に渡っていて、健康効果、好みの色での性格や相性、色を使ったマーケティング、気候風土による色彩感覚の違いとその理由、脳と五感の発達など、色に関するあれこれがわかります。
色の世界がこんなにも深いとはちょっと驚きでした。
そして、そのパワーはあなどれない。

自分で意識できない部分で、脳や身体は、いろんなことを感じ取って反応しているんだと思うと不思議です。
が、翻って考えれば、人間が本来持っているパワーも、実は意識しているよりも大きく多いってことですよね。

自分じゃわからなくても、実際に色の及ぼす効果や害がわかっているのなら、積極的に利用したいとかなりマジで思いました。
黒ばっかりを身につけていると、シワが増えるそうですよ(笑)。

色の秘密―最新色彩学入門
4167660903野村 順一


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タグ:野村順一

2005年06月14日

「イギリス人はおかしい」

副題は、"日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔"。
著者が、あの映画監督、リドリー・スコット氏のイギリスの自宅で働いた経験を中心に、イギリスの人や街の"素顔"をまとめたものです。

この視点は確かに新しいかもしれない。
イギリス本と言ったら、貴族的な部分や焼き菓子にまつわる、「憧れ」を全面に押し出したものが、やっぱり思い浮かびます。
それはそれで良いけど、ほんとはどうなのよ?的な部分で、とっても面白く読める本です。

思うに、これは女の人だから書けた本かもしれない。
ハウスキーパーという職業を抜きにしても。
なぜなら、女の方が現実的だからです。
「英国」と言う幻想に騙されないクリアな感覚と、媚びず諂わず、互角に渡り合うタフな著者に脱帽です。

かなり昔とは変わってきたけど、まだまだ「白人」とか「西欧」に対して見上げる視線を、日本人は持っていると思います。
逆に、アジア諸国に対する見下げる視線も。

著者は年齢的には、戦後、西洋の豊かさの洗礼を受けた世代です。
幼い頃は、進駐軍のジープを追いかけてガムをもらうことを、親に禁じられていた、と言います。
人が人を見る上での、まっとうな感覚が、ストレートな表現で迫ってきて、非常に楽しめる本でした。
続編も、是非読んでみたい。

イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔
4167123096高尾 慶子

おすすめ平均
starsスコット夫人のご冥福を祈る
stars生活者の図太い目線が新しい
stars従来の「イギリスびいき本」とは一味違う本
starsビジネスマンでさえ実態を知らない
starsイギリス本だけではない魅力

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2005年06月05日

「キッチン・コンフィデンシャル」

そんなに期待していなかったのです。ニューヨークのレストラン業界の舞台裏を、現役シェフが書いたのなら、まぁ面白そうだな、程度で。

それが!
ヘタな小説読むより面白かった。
何度も声を出して笑ってしまいました。

びっくりするような性癖の登場人物や、ドラッグや犯罪に溺れるシェフの実態、マフィアが絡む場面など、まるで映画みたいです。
文章は上手いし、テンポはいいし、エピソードは強烈。
レストラン業界の人々の熱気が、湯気のように立ち込めている感じ。

けれど、それだけでなく、ひとりの若者 −裕福な家庭で育った、目端は利くけど生意気で何も知らない− が、いっぱしの「男」(大人ではなく、敢えて男と言いたい)になっていく様が書かれているのです。

「仕事」に誇りを持ったり、冒険を求めたりすることに、憧れと恐れを同時に感じさせてくれる本でありながら、この面白さ。
シェフになりたい人も、レストランを経営したい人も、単に料理に興味のある人も、ただ楽しい思いをしたい人も、満足できて、おかわりしたくなると思います。

キッチン・コンフィデンシャル
4102156313アンソニー・ボーデイン


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2005年05月08日

「シービスケット」 − あるアメリカ競走馬の伝説

こんな馬がほんとにいたなんて。
そして、これが実話だなんて。
そんな話でした。

この馬に始めて逢った調教師が、何かを感じ、データを調べるシーンがあります。
すると、シービスケットは血統がよく、スピードを誇る不滅の名馬で、姿も飛びぬけて美しい父親を持っていることがわかる。

ところがシービスケットは、「地面に腹がつきそうなほど低い身体は、コンクリートブロックを思わせ」、「鈍重で毛づやの悪い」、「躍動感のかけらもなく、尾は哀しくなるほど短く」・・・。
さらに、不恰好な身体のせいで、おかしな歩き方をし、脚が悪いと誤解される始末。
父親の完璧な馬体の再現を期待されていた仔馬は、これ以上ないほど、父親に似ていなかったのです。あまりのみすぼらしさに、小屋の奥に隠されたりするほどに・・・。

その上、その素行ときたら、ほんとに馬か?と思わせるようなエピソードばかり。何よりも性格が悪く、アメリカ有数の調教師が匙を投げるほどです。
そんな馬が、ある調教師に見い出され、まるでこの馬のためにだけ存在しているようなジョッキーと出会う。
伝説となるには、それなりのことが起こるんですね。

馬も人間も魅力的ですが、世界恐慌という時代背景や、ジョッキーの生活の過酷さなど、面白さはつきません。
競馬に興味がなくても、レースシーンは相当面白く読めます。
最後には、手に汗を握って、シービスケットを応援していました。

シービスケット―あるアメリカ競走馬の伝説
4789724565ローラ・ヒレンブランド

おすすめ平均
stars映画を超えた実話

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シービスケット プレミアム・エディション
トビー・マグワイア ローラ・ヒレンブランド ゲイリー・ロス ジェフ・ブリッジス

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