2011年05月20日

「空飛ぶタイヤ」

これは面白かったです。
時間が経つのも忘れて一気読みでした。

「空飛ぶタイヤ」は、三菱ふそうのタイヤ脱落事故やリコール隠しが下敷きになったフィクションです。
だから物語の行き着く先はわかるし、主人公が苦悩することも前提になってます。
それでも、すごーく面白い。

企業内部のあれこれ、銀行の動きなど、細かく書かれていることは大きい。
著者の銀行小説などもそうですが、こういった部分だけでも充分面白い。

ですが、最終的には、追い込まれてもめげず、正義を戦って勝ち取るという、主人公の生き方に共感できるから、こんなに面白いと感じるのだと思います。
こうあって欲しい、という部分が満たされるとでも言いますか。

一方、同じような人が大企業に入社し、何年もその中で過ごすうちに変わっていく。
そのエリートサラリーマンの描かれ方も面白かった。
こちらはそう深く掘り下げてあるわけじゃないですが、やはり苦悩はある。

例えば、電車の中で痴漢を見つけたら、助けるのはいっぱい乗っている良い背広を着た人でなく、外国人やスポーツコートのおっちゃん。
階段で転げ落ちそうになっている人に、自分の危ないのも省みずに手を差し伸べるのは、ガテン系のおにいさんだし、花火大会で幼児が人混みにつぶされそうになっている時、バリケードを作って保護しているのは、ガングロの女の子。

そういう場面にたびたび出くわすと、やはり何だか考えてしまいます。
賢い人は計算するし、危うきに近寄らない。
そういう人ばかりでもないとは思いますが。

空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)
池井戸 潤

講談社 2009-09-15
売り上げランキング : 8112

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


同じようなテイストで読める「下町ロケット」。
こっちも面白かった。
タイトルが示すとおりの爽快な小説です。

高い技術力を持ち、堅実な経営をしていながらも、大企業の下請けという立場の弱さから、倒産寸前に陥ってしまう。
資金繰りや、特許を巡る大企業との攻防はいつもながらの面白さですが、胸に迫ってくるのは、夢と現実の狭間で、自分の生き方を問う主人公の姿。

手が届くかもしれない夢が目の前にあり、それを選べば犠牲になるかもしれない重い現実もまた目の前にある。
夢のある話を堪能しつつ、仕事って何だろう?、働くってどういうことだろう?と考えずにはおれない一冊です。

下町ロケット下町ロケット
池井戸 潤

小学館 2010-11-24
売り上げランキング : 7820

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

タグ:池井戸潤
posted by 八朔 | Comment(2) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月11日

「花紋」

山崎豊子も女性なのだなぁと、びっくりしつつ当たり前のことを感じた一冊でした。著者の作品の中では異色だと思います。

大正歌壇に短い期間だけ登場し、消息を絶った謎の多い美貌女性歌人の、宿命的な半生をたどったものです。
何から何まで激しく、濃い話でした。情熱、苦悶、因襲、憎しみ・・・。
何がと言って、主要登場人物の生き様そのものがすごいのです。創作とは言え、大正時代にはこういう心のあり方もあったのかも知れないと思うと、唸りたくなりました。

主人公は著者の創作で、実在の人物ではありません。こういう人物を作り上げ、ある種すれ違いドラマ的な筋に、大正時代の旧家のあり様や人々の愛憎を絡めるという、私が著者に持っていた印象とはだいぶ違う作品でした。
しかしそこは山崎豊子ですから、時代色は濃厚で記述は重厚。
好みから行けば、他の作品の方が好きですが、これはこれで充分楽しめました。

花紋 (新潮文庫 (や-5-7))花紋 (新潮文庫 (や-5-7))

新潮社 1974-08
売り上げランキング : 206257
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:山崎豊子
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月20日

「花のれん」

「運命の人」が話題なので、つい山崎豊子が読みたくなりました。
著者のもうひとつの顔とでも言うべき、大阪船場を扱った物語です。

呉服屋へ嫁いで来たものの、夫は商売に身が入らず遊んで借金ばかり。内職までして支えるけれど、どうにも立ち行かなくなってしまう。
自分は商売に向かないからと全てを投げ出そうとする夫に、どうせなら夢中になっている寄席や芸事を仕事にしてはどうかと持ちかける。
非常に驚きました。
昔の「妻」は大変だ、とても真似できないと思いつつ読んでいたのですが、夫に愛想を尽かすどころか、その人の得意な分野を勧める粘り腰。私だったらきっと、さっさと見捨てて離婚してしまう。

女性起業家は今では多いけれど、日露戦争が終わった頃の、何事もなければ"普通の妻"で、それに満足していたであろう人が、実はこんなに気力や能力を秘めていた、というのがまた印象的でした。
寄席を始めたことをきっかけに、主人公はどんどん目覚めてゆきます。商売の仕方、発想、根性、圧倒されました。

個人的に本書のイチオシは、現代の小説ではなかなか嗅ぐことのできない香りが、濃厚に満ちているところ。時代の空気感や、大阪の商人、芸人の世界など、舞台背景が明治や昭和初期であっても、こういうのは、他ではあまり味わえません。

花のれん (新潮文庫)花のれん (新潮文庫)

新潮社 1961-08
売り上げランキング : 8378
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:山崎豊子
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月23日

「花と龍」

小説ではあるけれど、登場人物は実名で、著者の両親が主人公。著者も実名で登場し、実際に起こった出来事が書かれています。
北九州の炭鉱町を舞台にした、歴史小説と言った方が良いのかも知れません。

面白かったです!
とにかく、このご両親が非常に魅力的。
この二人に触れることができただけでも、読んだ価値があったと思えますが、各エピソードも活劇のような面白さで、あっという間に上下巻が終わってしまいました。

小さな村に生まれ、若松という荒くれた炭鉱町に流れ着き、知恵と度胸で見事に生き抜いた男と女の物語。なのですが、古い時代の日本の、ひとつの風景としても、とっても興味深いものがありました。
明治の頃、日本の小さな村はこんな風だったのか、とか、荒くれた炭鉱町はこんなだったのか、など、時代の空気のようなものが感じられて、それがまたとても面白かった。
ヤクザの成り立ちは、私にはよくわからないけれど、任侠の世界や、義侠心というものが、こんな風に生活の中にあったのかと。

歴史小説として、全体を眺めつつ時代を切り取ったり、前後の流れから読み取ったりするのも面白いけれど、本書の場合は、著者が主人公の息子であるためか、視線が地面に近いというか、肌で感じられるのです。
こんな人たちが両親だなんて、すごいなぁ。
こういう親に育てられたら・・・、芥川賞作家になるのか(笑)。

花と龍〈上〉 (岩波現代文庫)花と龍〈上〉 (岩波現代文庫)
火野 葦平

岩波書店 2006-02
売り上げランキング : 100631
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:火野葦平
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月03日

「ダック・コール」

いつだったか、ふと書店で手にとった「ダック・コール」。
なんて印象的なんだろうと唸るほどだったのに、その後、本を失くし、著者の名前も本のタイトルも、ずっと思い出せずにいました。
もう一回読みたいなぁと、何度思ったことか。

念願かなって、図書館で見つけました。
ついでに、「セント・メリーのリボン」も借りて、大満足の読書でした。

著者自身も言っている通り、たしかにハード・ボイルドなのですが、そんな言葉でくくってしまうのはもったいないような・・・。"ハード・ボイルド"という言葉が独り歩きしていて、ある種のイメージが先行してしまうような気がするのです。
突き詰めれば、どう生きるかであって、その生き方の背景にある原風景のようなもの、他者にたいする尊敬、などなどが、静かな語り口で綴られています。
この静けさがなんとも良いです。

外国や外国人を舞台にしていても、まったく違和感がないのもびっくりです。
ひとつひとつの作品の完成度が高いからでしょうか?
著者の描く矜持の前には、国や生き物の種別など超えてしまった部分があるのかも知れない、などと思いました。

著者の略歴を見てみると、なんと昭和一桁生まれ。
せいぜい団塊の世代の方かと思っていました。
戦争を体験し、戦後に思春期を送り、大人になってからは高度経済成長まっただなかだったのですね。時と共に、価値観が大きくうねって変るような中で生きてきた人だからこその、この背筋の伸びるような文章の連なりなのでしょうか?
静かで、淡々としていて、だけど堅苦しくも冷たくもなくて、何かこう、魅力的なのです。

ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)
稲見 一良

早川書房 1994-02
売り上げランキング : 114480
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

セント・メリーのリボン (光文社文庫)セント・メリーのリボン (光文社文庫)
稲見 一良

光文社 2006-03-14
売り上げランキング : 16200
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年10月10日

「食堂かたつむり」

テレビで紹介されているのを見て、興味を持った友人が購入、「どう思うか聞かせて欲しいから読んで」と、手渡された本でした。

いや〜。久々に、読んでいて怒りを感じてしまいました・・・。
作品自体の出来も疑問ですが、私には主人公が傲慢に思えてならなかった。
この本から見えてくるのは、自己愛だけです。
もちろん、傲慢さや自己愛は小説のテーマとしては深く面白いものだと思いますが、本書はそれ以前の問題で、傲慢だということに気がついていないのです。

失恋した女性が、料理を振舞うことで再生し、家族との絆も再発見する、というような内容なのですが、著者が本当に書きたかったのは、愛や命などではなく、自分のお気に入りのインテリアで飾ったお店や、得意なちょっと変った料理だけなのではないでしょうか。

"食べる"という関連から、無理やり導き出したような"命"というテーマは、料理を語る部分に比べると、ほんとうは真剣に考えたことないんじゃないかと思うぐらいお粗末なのです。

ふわふわした、寓話的な雰囲気の中で進むわりに、ぎょっとするほど性的でグロテスクな比喩が出てきたり、詳細な豚の解体シーンが出てきたりして、それにも驚きました。"現実"を表現する手段としては、あまりにも・・・。

ある意味、素人が書くとこうなるんだろうか?、という他ではできない貴重な体験をしたような気もします。

食堂かたつむり食堂かたつむり
小川 糸

ポプラ社 2008-01
売り上げランキング : 3368
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月01日

「風の影」

相変わらず、宣伝文句に弱いです。
口コミで500万部、37ヶ国語に翻訳、なんて書いてあるともうダメです^^;。

で、なかなか面白かった。
読んでるうちは、そう好みとも感じなかったけど、読後、けっこうあれこれ印象に残ってます。そして、つらつらと登場人物のことなど考えている。世界観にハマっている証拠ですね。

この小説は、確かに、「レ・ミゼラブル」や「モンテ・クリスト伯」と同じ香りを放ってます。この香りこそが、この本の一番のセールスポイントだと思います。
主人公とともに、彼が出合った本とその著者の謎を追ううち、青春の甘酸っぱさを追体験し、陰惨な歴史、愛と憎しみ、友情、喪失、冒険やホラーなど、あれもこれも体験させてくれます。

脇役にフェルミンと言う男が出てくるのですが、この人がなかなか良かった。
身体中にびっくりするような傷跡があって、スパイの経歴のある、文学に詳しい女たらし。
彼がたびたび口にするセリフは、心に残るものもあれば、声を出して笑ってしまうようなものもあって楽しめました。

暖かいエンディングも、人気の秘密かも知れませんね。
お話を通して、人生とか自分のまわりの人たちのことなんか考える、子どもの頃の読書体験に似ていました。

風の影〈上〉
風の影〈上〉カルロス・ルイス サフォン Carlos Ruiz Zaf´on 木村 裕美

おすすめ平均
starsいろんな要素が盛り込まれた、壮大な迷宮のような物語
stars覚えてくれている人間がいるかぎり、ぼくらは生きつづけることができる
stars忘れていた読書の楽しさ
stars一冊の本から全てが始まるミステリ
stars若い心と出会う本、そして再会する本

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(1) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年11月02日

「オリガ・モリソヴナの反語法」

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」で、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した、米原万理の"小説"です。本書はドゥマゴ文学賞受賞作です。

1960年から4年間をプラハのソビエト学校で過ごした主人公は、ロシア語翻訳者となった30年後、モスクワを訪ね、ソビエト学校の型破りで魅力的な老舞踏教師だった、オリガ・モリソヴナの半生を調べ始めます。

この激動の時代に、ソ連や東欧の人々が、どんな暮らしをして、どんな辛酸を舐めてきたのかなんて映画でぐらいしか知りませんでした。またその映画の影響か、社会主義国と聞くと、ヘンに暗いイメージが先行して、厳しく悲しい目をした人たちばかりのような気がしていました。

確かに、粛清、収容所、流刑地、などと言う言葉が思い浮かぶように、政治犯になったらその家族まで処刑されてしまったり、外国人と付き合いがあればスパイ容疑をかけられる。

オリガ・モリソヴナの謎も、まさにそんな中にあるのですが、本書から受けるイメージは、陰湿な暗さとは無縁の、明るさやたくましさでした。
ソビエト学校の子供たちの自由闊達な様子、教師であるオリガ・モリソヴナはじめ、登場人物のしたたかさや強さが、時代背景の暗さや受けた仕打ちの悲惨さと対照的で、かえって現実的な感じがしました。
暗い時代の緊張感に思いをはせながら、是非この生き生きした人々の様子を読んでみてください。

巻末に、池澤夏樹と著者の対談が載っています。
「良心に忠実なロシア人」や、「共産主義の方が自由だった」など、著者の体験を通して語られる内容は本書の援護射撃でもあるし、それだけ読んでも面白いです。

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は、私の好きな本のひとつでもありますが、こちらもすごくおすすめです。
プラハのソビエト学校でのエピソードや、友人の話を綴ったものですが、東欧の近代を、こういう視点から感じさせてもらえた貴重な体験でした。

オリガ・モリソヴナの反語法
4087478750米原 万里


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

嘘つきアーニャの真っ赤な真実
4043756011米原 万里

おすすめ平均
starsまさしくお薦め!
starsコスモポリタンはこうして育つ
stars「さすが」の一言。
starsそして「ユーゴスラビア」はなくなった
stars著者、最高傑作

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(6) | TrackBack(3) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月23日

「コカイン・ナイト」

なんだか、恐いものを読んでしまった、"未来"について、こんな風に考えたことはなかった、というのが、率直なところです。
あとがきによると、この小説は、"病理社会の心理学"をテーマとする三部作の第一作で、1996年に発表されています。
10年近く前なので、今現在が、この小説で表現されているような未来だとも言えるわけですが。

なんで恐かったのかと言うと、著者が展開する"死んだ世界"と、自分が今送っている生活との間に、そんなに違いはないんじゃないか、と思えたからです。小説の中では、その世界は裕福なリタイアした人たちが住む高級リゾート地ですが、私はそんなものとは縁もゆかりもありません。それでも、何か近いものを感じてしまった。

この高級リゾート地で、5人を焼き殺す放火事件が発生し、弟が犯人として拘留されている。そんな連絡を受けた主人公は、何かの間違いに違いないと、救出に向かう。不思議なことに弟は罪を認めており、しかし周りは誰もが彼の潔白を信じており・・・。

真相を解明するという仕立てなので、つい先を読みたくなりますが、読み飛ばせない言葉の連なりに、立ちどまりつつ、何か鈍い衝撃のようなものを感じつつ、読み進みました。
リゾート地全体を包む、妙な昂揚感と倦怠感に、あてられたような感じです。

このリゾート地で起こっていることは、かなり恐い。けれど、読んでいる途中では半信半疑でした。ほんとに、そうなっちゃうか?、でも・・・、みたいな。感覚的にはそうなのですが、左脳は納得しているのです。

訳者も解説の高橋源一郎さんも、口を揃えて、この小説が"予言的"だと言っています。911のテロとその後のことです。
アメリカの近代を、出来事からなぞったものには触れたことがありましたが、今起こっている紛争やテロを、社会の病理という方向から考えたことはありませんでした。

こういう考えることを強いられる本は、読んでいるときの楽しさではなく、読んだことで起こる思考の変化が楽しめて、充実した読書でした。

コカイン・ナイト
4102271023J.G. バラード J.G. Ballard 山田 和子


Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(1) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月22日

「クローディアの憂鬱」

近親相姦の犠牲になったのが執筆のきっかけという著者、胎児性アルコール症候群について書いてあるらしい、というので読んでみました。

とんでもなく嫌なやつで、平気で嘘をついたり人を欺いたりする妹が、ある日突然自殺してしまう。自殺なんて有り得ない、と納得がいかない姉は、その真相を探ろうと、妹の異常な行動を追い、自身の生い立ちや家族の記憶を振り返る。

読んでいて、なんだかすごくハラハラしているのに気付きました。
謎解きではあるのですが、それより主人公の心理が、とてもハラハラさせる。人間同士が、心を通わせようとするときには、不安や恐れがあるものですが、自分に自信がもてないと、それはいっそう大きなものになる。そんな主人公の感情がとてもよく書かれているのです。

なぜ主人公は低い自意識しか持てないのか、そのあたりも家族の記憶の中で明かされていきます。
家族という、ある意味やっかいでどうしようもない、けれど切り離せない、自分を形作ってきたものに対する感情は、根底に愛があるだけに一筋縄では行かない。
その辺はドロドロしてくる要素だけど、この小説は暖かさや思いやりが全編を通じて流れていて、暗さは全然ありません。

私はずっと昔から、素晴らしい人間性のオカマの人がいて、もしそんな人と親しい友人になれたら、心を開いてなんでも相談できそうだ、と思ってました。
男でもあり女でもあり、自分の異質さについて悩んだり世間との軋轢を経験している。そんな人になら、何でも話せそうだと。
まさにそんな風な脇役が登場するので、ちょっとびっくり&羨ましく思いました。

あとがきによると、この著者の作品は、イギリスの公立図書館で最も多く貸し出されている作家100人に入るのだそうです。
小説としてのお決まりのツボを押えられてる感じなのに、地に足が着いた思慮深さが感じられた小説でした。

クローディアの憂鬱
459691060Xシャーロット・ヴェイル・アレン

おすすめ平均
starsひさびさ

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
posted by 八朔 | Comment(0) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月12日

「沈まぬ太陽」

日航機、御巣鷹山墜落事故の犠牲者に追悼の意をこめて載せてみました。
あの事故から、もう20年なんですね。
そして今でも、原因は究明されたわけじゃないんですよね。

テレビでは、「あの事故の教訓は今に活かされているのでしょうか?」とアナウンサーの声。続いて、事故直前の、機長の声や警告音が、繰り返し流されています。
遺族の人も、機長の家族も、これを観ているのかと思うと、なんだかやりきれません。

山崎豊子の作品は、ノンフィクション・ノベルという形なので、ストーリーもあって、重い内容でもあっという間に最後まで読めてしまいます。
まだの方、夏休みにどっぷり読んでみてください。
妨害されることも多いと聞く、著者の取材の成果をぜひ。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上)
4101104263山崎 豊子

おすすめ平均
stars国民航空だけの話ではない
starsこれもおもしろい
starsかなり感激しました・・・
starsいっきに読みました!
stars相変わらずの卓越した取材に基づいたストーリー

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:山崎豊子
posted by 八朔 | Comment(2) | TrackBack(0) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月02日

「ベルカ、吠えないのか?」

なにしろ、まずページをめくると、「ボリス・エリツィンに捧げる。おれはあんたの秘密を知っている。」なんて書いてあるんですよ。

そして目次があって、次のページには、「これはフィクションだってあなたたちは言うだろう。おれもそれは認めるだろう。でも、あなたたち、この世にフィクション以外のなにがあると思ってるんだ?」、ですからね。
ここまで見て、即買ってしまいましたー。

まず、軍用犬として育てられた4頭の犬がいる。
その子孫達が、戦争の世紀を通して世界中に広がり、やがて邂逅する。
独特の語り口の、不思議な小説でした。一頭一頭の物語も、そこにまつわる人間も面白いけど、けっこう好き嫌いがはっきりする小説かも知れません。

私は当初、もっとノンフィクション調のノリなのかと思っていたので、ちょっと面食らいました。
面白かったには違いないのですが、好みから言えば、時代背景や、犬の系譜、軍用犬の使われ方や訓練の詳細なども含めて、ノンフィクション?と思えるぐらい書き込んで欲しかった。

ベルカ、吠えないのか?
4163239103古川 日出男

おすすめ平均
starsうぉん
starsゆるい小説が苦手なら
stars奇想歴史小説おるいは犬私小説

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
タグ:古川日出男
posted by 八朔 | Comment(1) | TrackBack(1) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年04月24日

「天の夜曲」− 流転の海(第4部)

いや〜、待つのが長かった!
でもまだまだ続くそうですから、楽しみも続くってことですよね。
第一部から一気読みしてしまえるほど面白い小説ですが、ことこの第四部については、子供をもつ人には感慨深いだろうと思える部分が多かった。

まず、宮本輝がモデルのノブちゃん。このガキ、はしっこい!
もう知らず知らず、顔が緩んでしまいます。笑えるエピソード満載で、子供を持つ人が読んだら、可愛いのと心配なのとで、くらくらするんじゃないかと思いました。

そして、主人公の熊吾の子育てが、すごく良いのです。
「誇り」とは何なのか、今の日本の生活で学べる機会なんて、あまりないような気がします。
けれど、今の時代、一番大切なことなんじゃないかと。
良い成績をとること、お金を稼ぐこと、どちらも大切だけれど、誇りがなくてもできる。

熊吾のような人は、豪快だけど、ある意味、問題も多いかもしれない。
けれど、この人からは、"本物"の匂いがする。
もしかしたら、今の日本からは、"本物"がどんどん減っているんじゃないか…。

なんてことを考えながら、もう終わっちゃうの〜、と本を閉じるのが切なかった。
早く続きが読みたい!


天の夜曲
宮本 輝

関連商品
『宮本輝の本~記憶の森~』
血脈の火―流転の海〈第3部〉
地の星
森のなかの海(上)
森のなかの海(下)
by G-Tools
タグ:宮本輝
posted by 八朔 | Comment(2) | TrackBack(1) | その他の小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。