2011年04月24日

「検察側の証人」

久々のクリスティでした。
中学時代に凝って読み漁り、その反動で「もういいや」と言うウン十年を過ごしたのですが、短編はほとんど読んでいなかったのでした。
ミステリは長編(できれば重厚な)が好みなので、短編にはあまり手がのびないのです。

この短編集は、ミステリと言っても幻想的な話が多く、そのほとんどに精神病医や学者が出てきます。
幻想的な物話は、ちょっと的をはずしたなと感じることもしばしばなので、実はあまり期待せずに読み始めました。

しかし、面白いものは面白い。
あらためてクリスティの凄さを実感です。
話によっては、なんだか萩尾望都を思い出すような雰囲気のものもあったりして、ちょっと顔がにやけました。

タイトルを見るとすぐに内容が思い出せるような、味わい深いものばかり12編。
古い時代に書かれた本を読むと感じることが多いのですが、文章に無駄がないというか、さくさくしていて、けれども充分。短編だからでもあるでしょうが、だれることのない読書も久し振りだと言う感じがしました。

幻想的なものばかりではなく、本格的な謎解きものも入っています。
おすすめです。

検察側の証人 (創元推理文庫)検察側の証人 (創元推理文庫)
アガサ クリスティ Agatha Christie

東京創元社 2004-01
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2010年01月16日

「スカーペッタ」

"検屍官シリーズ"最新刊、やっぱり買ってしまいました。
前巻やその前の巻ほどは悪くなかったような。
それでも、シリーズ前半のような面白さは感じられなくて残念でした。
翻訳が変わっているのはなぜだろう?
今回の訳者も好きですが、前の訳者に特に不満はなかったし、好きでもあったので微妙に残念。

今回のケイ・スカーペッタは、なんだか今までと違う人物のような印象が残りました。少し前から妙におとなしめになっているけれど、今回もあまり存在感がないのです。全作同様、スカーペッタ自身が"戦う"シーンがないからでしょうか。
著者の得意とする(と私は勝手に思っている)人と人との、欲や愛憎の絡んだ打々発止の展開もあまりなく、もちろんそこにスカーペッタは登場せず、このシリーズらしさは「登場人物が同じだから」、ぐらいしか感じられませんでした。
彼らがまたよりをもどして(?)一緒に事件にあたるところは、大いに安心もし、ファンとしては嬉しいのだけれど。

スカーペッタ〈上〉 (講談社文庫)スカーペッタ〈上〉 (講談社文庫)
Patricia Cornwell

講談社 2009-12-15
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2009年11月20日

「ミレニアム」

スウェーデンのミステリだと言うだけで、ちょっと食指が動く今日この頃です。
ミレニアム3部作、一気に読みました。
好みから行けば、ヘニング・マンケルの方が好きだけど、読み始めたら止まらない面白さでした。誰もがそう思ってるでしょうが、著者がお亡くなりになったとは非常に残念。

主人公はジャーナリストですが、彼はある意味狂言回し的役割。
特にミレニアム2、3に描かれているのは、女性調査員リスベットと、彼女にまつわる謎です。特異な風貌、複雑な生い立ちと複雑な人間性、そして超人的な頭脳を持っているという設定で、知らず知らず彼女のことが気になってきます。
ミステリとしては、ミレニアム1が一番面白かったかな。けれど、登場人物の魅力にも引きずられ、内容もきな臭くなっていくので、2と3も止まりませんでした。

興味深いのは、スウェーデンでの女性の、被差別者、被害者としてのデータが、各章の扉の裏に書かれているところ。そのデータ自体面白いのですが、そういう事情をベースにおいて書かれたミステリなのかと思うと、新鮮でもありました。
"リスベットが出来上がるまで"、とでも言うか、彼女の生い立ちから来る人格や物の見方は、被害者以外の何者でもなく、その彼女に超人的な頭脳を持たせた設定は、心憎いような気がします。
とは言え、内容は全く堅苦しくなく、社会的なことなど考えず楽しめるエンタテインメントです。

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上
ヘレンハルメ美穂

早川書房 2008-12-11
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2009年10月05日

「凍てついた墓碑銘」

うーん・・・。
"昼メロ"のような小説でした。
ロマンス小説は読まないのでよくわかりませんが、恋愛小説としても、ミステリとしても、もうひとつ、いやふたつ?な感じでした。

顔見知りばかりの田舎町で起こる殺人と、処理に当たった大人たちの不可解な行動、直後に起こる10代の若者の出奔。
この謎にはひっぱられるのですが、あまり意外でない結末。

最後に起こる殺人は、読者にはわかるけれど、登場人物がその詳細を知るには、かなりな捜査が行われた後だろうと思われる状態。
登場人物にも魅力を感じませんでした。

斜め読みで内容はわかるので、登場人物の、さして深みの無い心理描写をわざわざ読まなくても、伏線らしいものもなく。
そんなわけで、ガッツリとミステリが読みたい方にはおすすめできないかな〜。

凍てついた墓碑銘(ハヤカワ・ミステリ文庫)凍てついた墓碑銘(ハヤカワ・ミステリ文庫)
宇佐川晶子

早川書房 2009-06-25
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2009年09月20日

「ダウンタウン・シスター」

ずーっと食わず嫌いしていたシリーズでした。
なぜか?
文庫の装丁とタイトルが、全く好みでなかったからです。
軽そうな印象の表紙、そして、レディ・ハートブレイクだの、サマータイム云々だの、絶対読みたくないと思うようなタイトル・・・。

その方が売れるのかも知れないけれど、表紙とタイトルの雰囲気を好む女性と、このシリーズの内容を好む女性とは、全くタイプが違うと思うんですが・・・。
まぁ、私個人の好みの問題かも知れないので、なんとも言えませんけども。

それはさておき、面白かったです。
シリーズ全作、いつの間にか読破していました。この濃いキャラクターのV.I.が、なんだかどんどん好きになるのです。
けっこう硬派な内容と、そこまで言うか?(そして、するか?)という主人公、脇役の面々、すっかりこの世界の住人になってしまいました。

ミステリの面白みのひとつとして、背景となる時代の風潮や社会問題をいかにうまく取り込んでいるか、という部分が私は気になるのですが、そういう意味でも満足できます。
次回作が待ち遠しいシリーズが、またひとつ増えました。

ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
山本 やよい

早川書房 1989-09
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2009年09月05日

「スリーピング・ドール」

ディーバーの、ライムものにちらり出てきた女性尋問官、キャサリン・ダンスを主人公にした新作です。
尋問の相手を観察し、その所作や発言からウソを見抜き、分析し、捜査に役立てる、という「キネクシス」を駆使し、犯人を追い詰めます。

これはもう、著者の力量があるからこそ、これだけの作品に仕上がっている、という感じを受けました。
面白いんです。
けれど一方、この能力を主力にして事件を解決する、または小説を作り上げるのはちょっと無理があるんじゃないかと思わずにいられませんでした。
"キネクシス"による分析をもとに、犯人の行動を読むという方法は科学的なのでしょうけど、そんなにわかるものだろうか?というほど、主人公は犯人の行動を予測してしまうのです。
その辺はちょっと気になりましたが、全体的には、キネクシスの分析シーンも含めて面白く読了しました。

女性主人公の内面や生活が活き活きと描かれていて、ディーバーの筆の確かさもまた感じました。
要するに、この人は上手いのね、というのが(今更ですが)一番の感想でした。

スリーピング・ドールスリーピング・ドール
池田 真紀子

文藝春秋 2008-10-10
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2008年12月23日

「チャイルド44」

あまりにも評判が良いので、手に取らずにおれませんでした(^^;)。
ソ連の連続殺人犯である、チカチーロの事件を下敷きにしてありますが、今までのミステリにはない感じです。

何より、レーニン体制下のソ連、という設定が勝因だと思います。ソ連の警察機構のあり方や、そこで働く人々の感覚、そんな閉塞した社会で身を潜めて生きている一般の人々。
恐ろしいです。殺人事件の怖さや謎よりも、この体制の怖さが滲み出ていて、読む手が止まりませんでした。

主人公は国家保安省のエリート。
"理想の国家であるソビエト連邦には、殺人事件など存在しない"という、卒倒しそうな信条のもと、良い官僚として生きている。
そんな、ある意味純粋培養だった彼が、現実を直視せざるを得なくなり、封印していた過去を思い出し、また美しい彼の妻が、彼と結婚した本当の理由を知り・・・、という風に、プロットも練りこまれていてよくできていると思いました。

そして、こんなに閉塞した世界を描いておきながら、意外なことに読後感が悪くないのです。最後には再生と希望がちらりと見えるからなのですが、個人的には、そこへ至る主人公の変化を書ききってあるあたりに、著者の力を感じました。
ミステリでなくても良かったんじゃないか、という気がします。

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)チャイルド44 上巻 (新潮文庫)
Tom Rob Smith 田口 俊樹

新潮社 2008-08-28
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2008年10月29日

「ブルー・ヘブン」

ワイオミングの猟区管理官"ジョー・ピケット"シリーズを書いた著者の単発ものです。
今回は、ノース・アイダホの老カウボーイが主人公。
西部劇やカウボーイには、私は特に興味はないんですが、その魅力がどこにあるのか、ちょっとだけわかったような気がしました。

ブルー・ヘブンと呼ばれる、アイダホ州北部の美しい小さな町。
12歳と10歳の子供が森で殺人を目撃し、追われるはめに。犯人はLAから来た引退後の警官たちで、保安官に取り入り、事件をコントロールしはじめる。

ずんずん読めるし、老カウボーイも渋いです。
けれど、私にはもうひとつだったかなぁ。
この著者に期待していたのは、人間同士の争う姿ではなく、自然との係わり方なんだと、改めて認識しました。
本書は、老カウボーイの生き様が事件の解決と重なっているので、そういうものに共感できるかどうかが鍵なのかも知れません。確かに、主人公のジェスは魅力的で、古く頑固だけれど、大自然と同じで、なくなって欲しくないと思わせるものがあります。

著者は敢えて人間を深く掘り下げずに、面白い娯楽小説に仕立てているような感じがあって、面白いんだけどもったいない、と感じてしまうのです。娯楽小説だから、それでいいんだろうし、確かに人を描きつつ事件も進んでいて、バランスの良い小説だとは思うんですが。

ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)ブルー・ヘヴン (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1) (ハヤカワ・ミステリ文庫 ホ 12-1)
真崎 義博

早川書房 2008-08-22
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2008年10月09日

「沈黙の虫たち」

天使が震える夜明け」を読んで、すっかりファンになった、P.J.トレイシーの2作目です。
1作目とは雰囲気が違って、ミネアポリス警察署の面々が主人公。

相変わらず人物の描き方がうまくて、刑事たちのやりとりにはニヤニヤ笑いが止まりませんでした。軽口をたたきあい、上司の服装をからかい、悲惨な事件の会議中でも、笑い出しそうになるのを必死でこらえる。
部長刑事が、事件について、つい深刻な言葉を吐く場面では、「彼は現場を離れて久しいから」と、現場の陰惨さを知る者たちの日常が表現されています。そういう心配りのようなものが全編にあって、登場人物の誰もが、好ましく感じられるのです。

個人的に気に入ったのは、若者のしゃべり方(質問ではないのに、語尾が上がって疑問形のような口調になる)をうまく使っているところ。
これは訳でも、いちいち?マークがついていて笑ってしまいました。

事件は、模範的な市民であり、静かに余生をおくっている老人が、次々と殺害されることで始まります。被害者の繋がりを探るうち、彼らが強制収容所の生き残りだとわかる。
この本は、"私刑"の是非を問うという重い問題を扱っているのですが、その問題と、配置された人々との関連がとってもバランスよく作られているのです。だからこそ、強制収容所の生還者なのだと。
本書の現代は、「Live Bait」。(生き餌)
日本語タイトルは、なかなか素敵だし好みだけど、原題はビシッと内容を表しているのですね。

正直なところ、1作目に比べるとやや期待はずれだと思ったのも事実ですが、このミネアポリス警察署のノリもまた捨てがたいのも事実。次作に期待です。

沈黙の虫たち (集英社文庫 ト 9-1 ミネアポリス警察署殺人課シリーズ)沈黙の虫たち (集英社文庫 ト 9-1 ミネアポリス警察署殺人課シリーズ)
中谷 ハルナ

集英社 2007-11
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2008年10月05日

「深海のYrr」

分厚い文庫本3冊。いや〜、なかなかの長さです。長い分には、私はけっこう平気なんですが、今回はそれなりに飽きたり疲れたりしました。

深海に潜むある未知の生物のおかげで、地球上に異様な事故が続出する、その生物は一体何で、人類はどうやってこのカタストロフィを生き延びるか、という話なのですが、読みどころは詳述された科学的な情報です。

研究機関や科学者、深海に潜るための潜水艇やスーツなど、実在のものが登場します。特に深海用のダイビングスーツについては、つい先日、ダイビングが人体に与える影響を「シャドウ・ダイバー」で知ったばかりの身としては、驚くばかりでした。

その他にも、これでもかと専門的な情報が出てきて、面白くもあるのですが、無理やり読まされている感もあって、だんだん飽きてもくるのでした。しかし、この情報を抜きにすると、どこかで聞いたような話なので、ちっとも面白くなかったかも知れない。
ストーリーそのものは、ハリウッド映画によくある感じです。ただし、アメリカとアメリカ軍が悪役に回っているのは、やや趣向が異なってはいます。

未知の生物の謎を巡って、環境破壊や、人類が神に創造された選ばれたものであるという認識、価値観をどこに置くかなどの論議が登場人物の間でおこります。人間の価値観で、人間以外の生物を計るのは傲慢だ、というのは共感できるし、一神教であるキリスト教の限界なども見えて、そのあたりは面白く感じました。

深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)深海のYrr 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV シ 25-1)
北川 和代

早川書房 2008-04
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2008年09月30日

「リスボンの小さな死」

1999年の、英国推理作家協会賞受賞作です。

たまたま、「タンゴステップ」、「獣たちの庭園」、そして本書と、ナチスを扱ったミステリを続けて読むことになりました。暗く、暴力と策謀が渦巻く時代から、何を立ち上がらせ、表現するかは作家によるけど、まさに三者三様でした。

本書は、1941年、第二次世界大戦時にナチスによってポルトガルへ送り込まれ、タングステンの買い付けに奔走する有能な事業家の運命と、1990年代の、暖かく美しいリスボンで起きた少女の殺人を、半世紀の時間を行きつ戻りつしながら結びつける、ミステリと言うよりは歴史小説といった味わいの作品でした。

ある時代に解き放たれてしまった狂気と、そこから生じる憎しみが連鎖して、一見平和に見える現代のリスボンに噴出する。けれど、それはまぶしい陽光で見えなかっただけの、リスボンの影の部分であるという感触が、なんとも背筋を寒くさせます。

著者の作品を読んだのは、「セビーリャの冷たい目」に続いて2作目ですが、正直なところ、面白かったのかどうか自分でもよくわかりません。けれど、印象的だったことでは群を抜いていて、映画を観たような感じで覚えているのです。

ポルトガルという、70年代まで独裁政権を持ち続けていた国、ヨーロッパだけれども、アフリカやブラジルの香りもする国に、行ってみたくなります。

リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)リスボンの小さな死〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
Robert Wilson 田村 義進

早川書房 2000-09
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2008年09月28日

「獣たちの庭園」

「リンカーン・ライム」シリーズが人気の、ジェフリー・ディーバーの単発ものです。
短編集を読んだことがあるけど、ライムもの以外の長編は初めてでした。

最初はやや戸惑いましたが、登場人物や設定に慣れてくると、あとは一気読みでした。
1936年、国家の威信をかけたオリンピックを開催し、来るべき戦争を見据えて、再軍備していた頃のドイツが舞台です。

ヒトラー政権下のドイツを、ジェットコースター式小説の中でどう表現するのか、読みつつこちらが考えてしまいました。街のあらゆる場所に、物理的にも心理的にも傷跡があって、それを説明することでナチス政権下の重苦しさを出そうとしているかのようで、やや読みにくいのです。

この本は、650ページほどの文庫なので、それなりのボリュームですが、私の好みから言うと、主人公の過去やドイツの反政権分子の生活、アメリカの対応をもっと書き込んで読ませて欲しかったかな。
主人公が最後にとる行動が、非常にかっこ良く、かつ悲しいので、ちょっともったいない気がしました。
とは言え、背景の複雑さや、登場人物の多さを思うと、さすがディーバーという面白さではありました。

獣たちの庭園 (文春文庫)獣たちの庭園 (文春文庫)
土屋 晃

文藝春秋 2005-09-02
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2008年09月24日

「あの日、少女たちは赤ん坊を殺した」

"ローラ・リップマン"という名前が、なぜか気になっていて、読んでみたくてわくわく!という状態でした。
だけど、以前読んでいた。それで、覚えていなかった。

本書は、アンソニー賞、バリー賞受賞作品です。私はアンソニー賞はけっこう面白い作品が多いという印象を持っていたので、正直なところ、なぜ?と思わずにいられなかった。
で、検索してみたところ、やはりこの人の受賞歴は輝かしいのです。アンソニー賞自体はファンが集うお祭り的要素があるようなので、私の好みじゃなかった、というだけのことなのかも。

この「あの日、少女たちは赤ん坊を殺した」は、11歳のふたりの少女が、パーティを追い出されるシーンから始まります。
なぜ追い出されたのか、ふたりは地域や学校でどんな位置にあるのかが語られ、7年後の現在へ、なぜ彼女たちは赤ん坊を殺したのかと話が繋がっていきます。

原題は「Every Secret Thing」。
そのタイトルどおり、各登場人物の心象風景が細かく書き込まれ、社会の病質のようなものが浮き上がってきます。しかし、この書き込まれた心象がけっこうかったるかった。
過去の少女たちによる殺人事件と、現在の幼児誘拐事件が絡み、刑事、弁護士、被害者の母親など、いろんな人がそれぞれ秘密を持って登場、しかしどこか散漫なのです。
普通の人々の暗部をえぐるような深さも感じられず、事件の展開も、少女たちが赤ん坊を殺した動機も経緯も消化不良という感じを受けました。

登場する女性たちに、共感できるかどうかが鍵なのかも知れません。
著者の代表作であるテス・シリーズを読んだら、少しは印象が変るかな?
今のところ、勇気がでませんが。

あの日、少女たちは赤ん坊を殺した (ハヤカワ・ミステリ文庫)あの日、少女たちは赤ん坊を殺した (ハヤカワ・ミステリ文庫)
Laura Lippman 吉澤 康子

早川書房 2005-10
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2008年09月21日

「冬そして夜」

S.J.ローザンの、リディア・チン&ビル・スミスシリーズ最新作です。
実は、著者もシリーズのことも全く知らなかったんですが、二作目の「ピアノソナタ」を手にとったら、そこから全作を一気に読み倒してしまいました。

何と言っても、主人公の一人であるビルが良いです。そして、リディアの属するNYのチャイナタウンの、活気や風習、人々の考え方などがとても面白い。最初は、著者は中国系かと思ったりしましたけど、そんなこともないのですね。よく描かれていてびっくりです。

リディアとビルが、一作ごとに交互に活躍するこのシリーズ、今回はビルの番です。ビル番の作品は、重厚かつ繊細なテイストですが、本書はシリーズ中でも読み応えがありました。

ワレンズタウンという、高校のアメフト部を誇りとする小さな街が舞台です。
アメフト人気は、アメリカ人以外にはわかりにくいほどの沸騰振りだと思うのですが、その異常な人気が街の体質を歪め、子供たちにのしかかる・・・。要するに、アメフト選手や関係者は犯罪さえも許され、それ以外の体育会系でない生徒は、息を殺して身を潜めているような状態なのです。
まさかと思うような街の在り方ですが、コロンバイン高校の銃乱射事件も、そういった体育会系生徒によるいじめが本質にあるのだと、あとがきに出ていて、ぎょっとしました。

そういうアメフトの街と、そこに住む、長く音信不通だったビルの妹家族、ビルの悲惨な生い立ち、それらが相まって、切実さが読ませました。事件そのものは解決しても、ワレンズタウンが抱える問題、家族の問題は、そう簡単に解決できるものではない。それをそのまま放り出しているかのような結末は、かえって現実的です。

冬そして夜 (創元推理文庫 M ロ 3-8)冬そして夜 (創元推理文庫 M ロ 3-8)
直良 和美

東京創元社 2008-06
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2008年09月18日

「タンゴステップ」

ヘニング・マンケルの、ヴァランダー警部ものじゃないミステリです。ナチスを題材にしている本書が、ドイツでベストセラーになったという解説に惹かれて購入。

ナチス戦犯を、イギリス人の処刑執行人が処刑するシーンから始まります。
ナチスについて、"人の心に潜む狂気は、他の国で発現していてもおかしくなかった"という、深く恐ろしい洞察が語られた後、スウェーデンの森で斬殺された、元刑事の操作へと話が進んで行きます。

これはミステリで、犯人探しも最後まで緊張感を強いられる面白さですが、読みどころはやはり、ナチスの狂気を過去と現代の両方で暴いている部分だと思います。ヨーロッパの人々は、ドイツ人でなくても、この狂気に関して長年考え、見つめ続けてきたのだろうと感じました。
本書にはナチに志願するスウェーデン人兵士が出てきますが、第二次大戦中、スウェーデンは中立国だったけれど、ナチ信奉者もまた多くいたのですね。一方で、スウェーデンのシンドラーと呼ばれるワレンバーグなどもいるわけですが。

マンケルの小説は、スウェーデンとその他の国々との係わりが背景にあって、やはりそこが面白い。スウェーデンに対する興味が、どんどん膨らんできました。

タンゴステップ 下 (3) (創元推理文庫 M マ 13-8)
タンゴステップ 下 (3) (創元推理文庫 M マ 13-8)柳沢 由実子

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stars安心して読めます。次回はシリーズ再開を!

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2008年01月20日

「LABYRINTH」

これ、Amazonでは厳しい書評が多いんですけど、私はけっこう楽しめました。
何が面白かったかと言うと、12世紀のアルビジョア十字軍に関する話がベースになっているところ。
そこに、聖杯伝説を絡めて小説に仕上げてあるのです。

ローマ時代、キリスト教は政治を取り込んで爆発的に大きくなるけど、一神教の性ゆえか、同じキリスト教でも解釈の違う宗派を異端として迫害してきた歴史がありますよね。
もちろん、歴史の方を詳しく知りたい場合は、ちゃんとした本をあたるべきでしょうけど、地理的な状況やアルビジョア十字軍の簡単な成り立ちのようなことはわかりますし、小説だけに臨場感があります。

本書の中で語られている、"聖杯"の存在意義に、私は共感できました。それがこの本の核で、そこを目指して話がすすんでいくので、ネタばらしはしませんけど(^^;)。
ただし、ミステリのネタとしてどう感じるかは、それぞれかな、とも思います。
南フランスの歴史に興味がなくて、純粋にミステリーを読みたいと思っている場合には、この本は不向きかもしれません。

ところで、本書の英語は特に難しくはありませんでした。
ただ、舞台が南フランスなので、地名、人名は読みにくい。
それに、南フランスはオクシタン文化圏であることから、オック語が少し出てきます。と言ってもストーリーには影響なく、場の雰囲気をかもし出していて、良い感じです。

LabyrinthLabyrinth
Kate Mosse

Berkley Pub Group 2007-02-06
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タグ:洋書

2008年01月06日

「The Overlook」

マイクル・コナリーの書評をアマゾンで見ていると、原書も英語が平明だと言う記述が多いので、読んでみました。
確かに!
ハリー・ポッター以外でも読めるものがあった(笑)。

まだ原書で読んだのはこの1冊だけですが、話の面白さにも引きずられて、あっという間の読書でした。緻密な調査や証拠が必須の警察小説で、しかも主人公は複雑な心をもてあましているような人物。それが平明な英語で書かれているとはなんだか意外。
きっと、英語が母国語でないたくさんの人たちが楽めるものが、アメリカでは必要なのでしょうね。

「The Overlook」は、ボッシュの「Homiside Special Squad」での最初の事件として幕を開けます。
殺人事件の被害者が、医療用の放射性物質に関わっていたことから、テロリストの関与が疑われ、FBIとの大掛かりな捜査体制が組まれます。
もちろん、ボッシュはFBIとも上層部ともうまくやってます(笑)。

新しいパートナーは、今後の活躍が見たいと思わせる、なかなか気になる存在でした。
面白かったのは、コネでポストを手に入れた無能な警察幹部の描かれ方。ちょっと勘違いしたタフさの表現に笑えました。

The Overlook (Harry Bosch)
The Overlook (Harry Bosch)Michael Connelly

おすすめ平均
stars批評しながら読むとまた違った意味で楽しめる
stars話の展開が単純
starsSolid and Satisfying Bosch

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「ラスト・コヨーテ」

最近ハマった、「ハリー・ボッシュ」シリーズです。
何がどう面白いと言うより、とりあえずハリーがすごくいい。
もちろん、内容も面白いから何作も続けて読んでしまったわけですが、この主人公には、なんだかちょっと惚れました♪

ハリーの何がそんなに良いのか?
たぶん、時折見せる子供のような素直さでしょうか。
この頑固で手の焼けるおやじに対して、素直さもないかも知れませんが、ま、女が男に惚れるのはそういう部分なのでしょうね(笑)。けれど、これだけのヒットシリーズですから、私だけでなく、世界の老若男女が好むということですよね。

本書は、ハリーの人格形成の一部分となる、母親殺害事件に踏み込んでいくという内容。
幼い頃に母親が殺害されたというと、ついジェイムス・エルロイを思い出してしまいます。(彼の場合は現実の話ですが)
エルロイも好きな作家の一人ですが、彼の作品のような独特の雰囲気は、マイクル・コナリーの著作にはありません。
けれども、エンターテインメントの設定としての主人公の過去はとてもうまく扱われていて、ボッシュが際立っています。
そしてクセになるんですよ。

ラスト・コヨーテ〈上〉 (扶桑社ミステリー)
ラスト・コヨーテ〈上〉 (扶桑社ミステリー)Michael Connelly 古沢 嘉通

おすすめ平均
stars湘南ダディは読みました。
starsA good one
stars33年前の“母親殺し”に挑むボッシュの行き着く先は・・・
stars確かにカウンセリングかも
stars初めてMichael Connelly 読みました

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2007年12月30日

「コフィン・ダンサー」

このところ、ミステリ纏め読み、とでも言う状態でした。
ひとつは、ジェフリー・ディーヴァーの「ライムもの」。
このシリーズは、はずれを覚悟しつつも、やはり出たら読んでしまいそうです。

「ボーン・コレクター」を映画で見ているので、どうしてもデンゼル・ワシントンが思い浮かぶけど、個人的には、ライム役に彼は、ちょっと違うかな〜と。
あえて言うなら、マイケル・ダグラスかなぁ??
彼なら、ガミガミ怒っても、またかと思って許せるような気がするんですけど・・・。

身体が不自由だからというよりは、もともと性格に問題ありと思われる、ちょっと扱いにくいライムという主人公は、非常に面白い設定だと思いました。
その上、弟子は、血が滲むほど頭をかきむしり、爪を噛み千切る美女という、不安定な人間。映画を観たときに、なぜアンジェリーナ・ジョリーなのかと思ったけど、もともと美人の設定だったのですね。
ちょっとあざとい設定かなという気もしますが、面白いのでオッケーです。

鑑識作業の詳細、ストーリーの面白さ、どんでん返し、登場人物の濃さ。
売れてる人はやっぱりうまい。面白いです。

コフィン・ダンサー〈上〉 (文春文庫)
コフィン・ダンサー〈上〉 (文春文庫)Jeffery Deaver 池田 真紀子

おすすめ平均
stars今から読んでも遅くないリンカーン・ライム・シリーズ
stars一作目より大衆向けか
stars最後の100ページくらいからすごい
starsでんどん返し♪
starsライムVS‘コフィン・ダンサー’のスリルに満ちた対決

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「異邦人」

「検屍官」シリーズの最新作が出てるじゃないか!
と、書店で見つけ、衝動買いです。
そしてあっという間に読了。
う〜ん。
もうあの、私が大好きだったスカーペッタには会えないんでしょうか? 登場人物に馴染みがあるので、彼らの日々のごたごたも読めるけど、そうでなかったら辛い。設定は凝ってるけど、消化不良のまま終わりました。
人の心の闇や、心理を掘り下げる書き方をされているシリーズではないだけに、これだけシリーズが続くと煮詰まってくるんでしょうかね。

今回際立っていたのは、マリリンという精神科医のうっとうしさ。こんな人物を書けるあたりはさすがと思いますが、彼女と対決(というほどでもないが)するスカーペッタには、過去の覇気は感じられず。
他の登場人物も、魅力が薄れているように感じてしまいました。
要するに、魅力を発揮する場面が少なかったということかも知れません。

けれど、また続篇が出たら、また読んでしまうんだろうなぁ。
スカーペッタも良い年なんだから(余計なお世話ですが)、いっそ老人にして、それでもかっこ良い、と言うようなものとか、ルーシーを前面に出すとか、何かガツンとしたものが読みたいな〜。

異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26)
異邦人 上 (1) (講談社文庫 こ 33-26)相原 真理子

おすすめ平均
stars初めて読んだので・・・
starsまたひらがな攻撃が・・・
starsケイを巡る人間関係
starsチャールストンでは、皆、年寄りになってしまって・・・
starsサイコパスにお腹いっぱい

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