2009年09月20日

「ダウンタウン・シスター」

ずーっと食わず嫌いしていたシリーズでした。
なぜか?
文庫の装丁とタイトルが、全く好みでなかったからです。
軽そうな印象の表紙、そして、レディ・ハートブレイクだの、サマータイム云々だの、絶対読みたくないと思うようなタイトル・・・。

その方が売れるのかも知れないけれど、表紙とタイトルの雰囲気を好む女性と、このシリーズの内容を好む女性とは、全くタイプが違うと思うんですが・・・。
まぁ、私個人の好みの問題かも知れないので、なんとも言えませんけども。

それはさておき、面白かったです。
シリーズ全作、いつの間にか読破していました。この濃いキャラクターのV.I.が、なんだかどんどん好きになるのです。
けっこう硬派な内容と、そこまで言うか?(そして、するか?)という主人公、脇役の面々、すっかりこの世界の住人になってしまいました。

ミステリの面白みのひとつとして、背景となる時代の風潮や社会問題をいかにうまく取り込んでいるか、という部分が私は気になるのですが、そういう意味でも満足できます。
次回作が待ち遠しいシリーズが、またひとつ増えました。

ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)ダウンタウン・シスター (ハヤカワ・ミステリ文庫)
山本 やよい

早川書房 1989-09
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「タヌキのひとり」

何度も読んでしまいました。
まず、飛び込んでくるたくさんの写真から目が離せなくなります。
甘える鹿、自慢げなタヌキ、風格漂うキツネ等々、常に動物と接しているからこそのショットがたくさんで、動物好きには写真だけでも大満足です。
ここに紹介されているのは、著者の活動のほんの一部で、また日常でもあるわけですが、日ごろ野生動物と接することのほとんどない私には、へー!や、は〜♪の連続でした。

そしてシンプルに綴られた日常の中から、野生動物と人間との共存の問題点、保護した動物を野生へ返すことの難しさなどが滲み出してきます。すごく可愛い、というのと、野生動物にまつわる苦しい状況を作り出した側に自分がいるというのとの、板ばさみのなんともいえない気分になりました。

著者は獣医で、野生動物の保護や治療に無償で取り組んでいる一方、「キタキツネ物語」の企画、動物監督をはじめ様々な動物番組の監督、著作をされているようです。
映画は観たことがありますが、企画者がどのような人なのか全然知りませんでした。
本書の文章もシンプルで良かったけれど、もっとしっかり書かれた著作もぜひ読んでみたい。この押し付けがましさの全く無い、淡々とした文章の奥にあるものを、もっと読みたい、と思うのです。

タヌキのひとり―森の獣医さんの診療所便り (とんぼの本)タヌキのひとり―森の獣医さんの診療所便り (とんぼの本)

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タグ:動物

2009年09月14日

「ローマ亡き後の地中海世界」

「ローマ人の物語」は、老後の楽しみにとっておこう、と思っていたけれど、文庫が出たらやっぱり読んでしまった。
それで淋しい思いをしていたところでした。

本書は、古代ローマ滅亡後の、キリスト教世界へ進出してきたイスラム教徒との攻防を巡る話です。
中世とひと口に言っても長いですが、やはり十字軍や異端審問、南米への殖民と布教などが思い浮かんで、暗い恐ろしい印象があります。
しかしそのキリスト教徒たちも、イスラムの海賊にこんなにも苦しめられていたのかと驚きました。時代がどんどん移り変わっていく中、1800年代になってやっと、"禁止法"が実施されるのですから、とんでもなく長い!

この長い海賊との戦いを綴ってあるため、関係する各国の事情までは詳しく語られていません。イタリアはともかく、フランスやスペイン、イスラム側についても、もう一人か二人、塩野七生がいて、それぞれに書いてくれたなら、どんなに面白いだろうと思わずにいられません。

塩野七生はどうもクセになります。
いつもながら、読みやすさ、面白さ、そして著者独自の視点が新鮮です。

ローマ亡き後の地中海世界(上)ローマ亡き後の地中海世界(上)

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「農業・起業のしくみ」

"農業"や"農家"がいったいどうやって成り立っているのか全く知らないことに、ふと気づきました。
直売所には日ごろお世話になっているし、大好きだけれど、いったいこのシステムはどうなってるんだろう?というのがきっかけです。

本書は、農業に転職しようとする人のために「農業をビジネスとして捉える」という視点から書かれた、おおまかな手引書と言ったものです。
とりあえず、どうやったら農家になれて、土地や田畑が手に入れられて、作物を売ることが出来て、生計が立って・・・、ということがわかります。
そのほか、農業法人に就職する方法、相談窓口一覧などもあり、現実的で実用的な本でした。

農業を仕事として選びたいけれども全く門外漢、という人には非常に有効な本だと思います。まずこの本を読むことで、その世界の入り口に立てると思います。
ひとつひとつの項目についてはさらりと説明されているだけなので、ここから自分に必要なことをひとつひとつ調べ、一歩を踏み出すことになるのでしょうが、良い一歩になるんではないかと。

別の視点でいえば、農業のしくみはざっとわかるけれども、転職を希望しているわけではない場合、読み物として面白いというタイプの本ではありません。
もちろん、書かれた目的が違うので当たり前なのですが、そういう向きには図書館でめくってみるだけでも充分かも知れません。
分厚い本ではないので、ざっと読むだけなら図書館で読んでしまえるかも。で、なんとなく世界を覘けると思います。

あなたにもできる 農業・起業のしくみあなたにもできる 農業・起業のしくみ

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2009年09月05日

「スリーピング・ドール」

ディーバーの、ライムものにちらり出てきた女性尋問官、キャサリン・ダンスを主人公にした新作です。
尋問の相手を観察し、その所作や発言からウソを見抜き、分析し、捜査に役立てる、という「キネクシス」を駆使し、犯人を追い詰めます。

これはもう、著者の力量があるからこそ、これだけの作品に仕上がっている、という感じを受けました。
面白いんです。
けれど一方、この能力を主力にして事件を解決する、または小説を作り上げるのはちょっと無理があるんじゃないかと思わずにいられませんでした。
"キネクシス"による分析をもとに、犯人の行動を読むという方法は科学的なのでしょうけど、そんなにわかるものだろうか?というほど、主人公は犯人の行動を予測してしまうのです。
その辺はちょっと気になりましたが、全体的には、キネクシスの分析シーンも含めて面白く読了しました。

女性主人公の内面や生活が活き活きと描かれていて、ディーバーの筆の確かさもまた感じました。
要するに、この人は上手いのね、というのが(今更ですが)一番の感想でした。

スリーピング・ドールスリーピング・ドール
池田 真紀子

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2009年08月14日

「シャドウ」

久々のミステリ、初めて読む作家でした。
"本格"と呼ばれるもので、日本のものは、好みでないことが多いのですが、これはけっこう面白かったです。

うまく騙してくれます。騙されていたと気付いた時には、思わずページを戻って、どう書かれていたのか確認してしまいました。
気持ちよく騙される快感、久し振りでした。

裏表紙に書かれている内容紹介を読んでも、どんな話なのかさっぱりわからないし、ミステリっぽくないし、子供が主人公みたいだし、と買うときにはちょっとためらわれました。
けれど読後には、これは内容を紹介しようにも難しいだろうな、と。

子供が活躍して、読みやすいけれども、変な軽さや子供っぽさはありません。
たぶん、文章が整理されているからなのかな?
著者の他の作品も読んでみたくなりました。

シャドウ (創元推理文庫)シャドウ (創元推理文庫)

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「山本五十六」

海外事情に明るく、米国との開戦にすごーく反対だった人、けれども、それでも戦わなければいけないのならと、真珠湾奇襲を企てて成功させた人、というのが、私の山本五十六に関して知っていることの全部でした。

本書には、そういう山本五十六が、人間として"どんな"人だったのかが描かれています。
軍神と奉られているけれども敵も多かった、博打が好きでまた上手かった、女性関係はこれこれこう、などなど、意外性も含めて、人間的な姿がとても興味深く面白かった。
巻末に記載されている、参考文献の量も大変なもので、著者はできるだけ、傾斜のないフラットな視点から山本五十六を描こうとしているように感じられました。

なぜそういう行動をとったのかという分析的な方向では無いからか、あれほど戦争に反対だった人の、開戦後の行動や思考については、心理的に掘り下げて書かれているわけではありません。
少し残念ではあるけれど、読む限り、もしかしたら、山本五十六は実はもう投げやりになっていて、死ぬことしか考えてなかったのかな、などと思いつつ読了しました。
それはそれとして、評伝としては、とても良く描かれていると思いました。海軍の、スノッブさ、軍人は政治に口出ししないなどの考え方、良くも悪くも伝統的に紳士的な部分、など非常に興味深かった。

直接山本五十六とは関係ありませんが、「手相・骨相」がこんなにも当たるのか?というのにはびっくりでした。
海軍の航空隊の訓練で、あまりにも事故が多く、兵士や高価な飛行機がどんどん犠牲になっていく。兵士がパイロットに適しているかどうかを見極めようと四苦八苦しているが、なんともうまく行かない。そんなところへ、手相・骨相を見る人を紹介されるのです。
そして8割以上の確率で、その人は兵士の成績を当ててしまう。のみならず、終戦がいつ頃だとか、南方戦線は今後どうなるかとか、ことごとく当ててしまう。この人が特別だったのかも知れないけれど、手相・骨相というものになんだか興味が湧いてきました。

山本五十六 (上巻) (新潮文庫)山本五十六 (上巻) (新潮文庫)

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「出雲の阿国」

歌舞伎の創始者だと言うことは知っていても、具体的にどんなもんだかよくわからない。そんなわけで手にとってみた本書、面白くて一気読みでした。

主人公の描かれ方が圧巻です。
女性が女性を描く醍醐味を充分味わえました。それは著者の得意分野でもあるでしょうけれど、調べつくし、考えつくしたからなのだろうと感じました。

秀吉の子を淀が産むあたりの時代は、有名で人気もあるし、大まかには知っているように思っている。そこへ戦国武将ではなく、阿国の視点が加わることで、また違った理解が自分の中にできて、それも面白かった。
淀と対決(?)する阿国には、あっぱれ!と手を叩きたくなります。

仕事と家庭の両立、または自分のやりたいことと恋との兼ね合いなどは、現代でも悩ましい問題だと思いますが、本書の中の阿国は、自分が何を求めているのか本能的にわかっていて、悲しみや淋しさはあっても変な迷いはないのです。
何かの創始者となってしまうような人は、こんな風なんだろうなぁと思わずにいられませんでした。

出雲の阿国 上 改版   中公文庫 あ 32-8出雲の阿国 上 改版 中公文庫 あ 32-8

中央公論新社 2002-08
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タグ:有吉佐和子
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2009年02月22日

「天国の扉」

「償いの椅子」もそうだったけど、けっこう込み入った話で、けれども先へと進ませる牽引力のある、ある種の魅力があるんです。
この感じが好きな人にはクセになる作家なんだと思います。
けれども、もう一歩!って感じがあって、個人的には非常に惜しい、というところです。

武術の旧家に育った青年が主人公です。
この設定はとっても新鮮で、「斬る」という言葉を現代劇で発することができる人たちが登場します。立ち回りもあるし、武術の心得的なことも出てきて、そのあたりのウズウズ感も満足させてくれます。

その主人公と彼の家族、親族、主人公のガールフレンドだった女性の家との因縁、死刑廃止運動などが絡み、守るべきもの、愛するものとの絆や葛藤が描かれています。

ただ、刀が出てくるのだから当然と言えば当然なのでしょうが、血生ぐさい展開になるし、話自体、けっこう悲惨です。
ミステリとしては、早めに黒幕がわかってしまうので、読みどころは主人公の生き様ということになります。
その生き様は、潔いのかも知れないけれど、剣の達人ならばそうなのかも知れないけれど、警察へ行った方が良かったんでは・・・?と思ってしまいました。
もちろん、それじゃ話にならない訳だけど。
要するに私は、主人公が刀を振り回して、相手が死んでも仕方ない、という状態になるのが、ちょっと残念だったのでした。

天国の扉 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア天国の扉 ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドア
沢木 冬吾

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償いの椅子 (角川文庫)償いの椅子 (角川文庫)
沢木 冬吾

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タグ:沢木冬吾

2009年02月10日

「ウルフ・サーガ」

狼たちの物語ですが、描かれているのは人と自然との関わり方でした。
この話には人間は出てきませんが、人間の営みが自然界へ与えた影響を、違う視点から見ているようで、背筋が寒くなりました。

自然界のバランスを、"掟"として登場させ、その"掟"にしたがって生きる狼たちと、"掟"を捨てて新しい世界を作ろうと、強大な力で他の狼たちを支配する、黒く巨大な1匹の狼。
多くの狼は力の前に平伏し、自然界の法則を無視した新しい世界へ否応なく引きずり込まれます。
けれど、力に屈服しながらも、もしかしたら、新しい世界は良い世界かも知れないという期待も、少し持っている。権力に媚を売るものもいる。流れに呑まれるものもいる。

均衡の崩れた世界で、狼たちが行き詰る姿は目を覆いたくなる情景です。
けれど、このお話は希望を持って終わります。
人がこれからどう自然と関わっていくのか、否応なしに考えさせられます。

純粋に動物を描いているわけではないのに、狼たちがとても魅力的でした。
安易に擬人化されているのではなく、狼らしく描かれていて、映像が浮かぶようでした。
一緒にじゃれあったり、眠ったりしたいと何度思ったことか。
著者はきっと、すごく狼が好きなのだと思います。
そうでなければ、単なる人間世界の投影として登場するに過ぎない、記号のような存在になってしまったのではないでしょうか。
この狼たちの魅力が、本書の大きな特徴であり力だと感じました。

ウルフ・サーガ〈上〉ウルフ・サーガ〈上〉
K¨athe Recheis 松沢 あさか

福音館書店 1997-12
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